音楽メモランダム (2005年掲載分)
目 次
2005年のベストニュース (December 25, 2005)
- WMCでは、サイト開設以来、音楽の普及に関するインターネットの効用を主張してきました。
- そのうちのひとつが、これまでのレコード、CDに代わるコンテンツ流通の新しい流れについて、新しいビジネスモデルの創出を期待するものでした。
- この主張に対して、日本(米国なども同様)のレコード会社のとった態度は、既存権益を守ることに走り、新しい流通モデルには冷淡という以上に阻止しようとする動きさえ見られました。
- ここに風穴を開けたのは、パイオニアとしての Napster であり、ビジネスとして完成させたアップルコンピュータの iTunes Music Store です。
- 今や、iTunes Music Store と iPod は、2005年最大のベストセラーになり、ここにいたって、保守的なレコード会社も追従せざるを得なくなりました。まさにご同慶の至りというところです。
- コンテンツの流通機構が改革され、5.1ch を主とするサラウンド再生機器が普及してきました。これによってライブの人気が低下するかというと、逆に、本物を聴いてみたいという人々が増えるのではないかと思っております。
アップルの "iTunes Music Store" 日本でも開始 (August 7, 2005)
- アップルの "iTunes Music Store" が8月4日、ついに日本でもサービスが開始されました。
- 米国では2年以上前に始められたサービスが、ようやく日本でも開始されたわけですが、なぜ、この間に、日本の企業が対抗できるサービスを開始できなかったのか残念ではあります。黒船が来なければ目がさめない気質の表れかも知れません。
- 配信される曲は、100万曲といわれていますが、本当に買いたいと思う曲が少ないような気がします。それはさておき、1曲150円といううたい文句も、150円でダウンロードできるのは、10分以下の曲だけのようです。
- 例えば、ベルリンフィルが吹き込んだドヴォルザークの新世界は、アルバムで 1500円、楽章単位で購入できるのは、演奏時間8分18秒の第3楽章のみで、他の楽章は、楽章単位では購入できません。
- 同じベルリンフィルのものでもベートーヴェンの運命などは、どの楽章の演奏時間も10分未満なので、全ての楽章が1楽章150円で購入できます。
- まだ、課題はほかにもありますが、サービスが開始できたことはめでたいことで、日本でも有料音楽配信が本格的に離陸し始めたといえるでしょう。
- ほかの課題のうち大きなものは、日本音楽著作権協会 (JASRAC) が iPodへも補償金を賦課するとしている問題ですが、これは別途取り上げて議論したいと思います。
音楽配信に関する OECD 発表から (June 26, 2005)
- 今回は、去る6月13日に音楽配信に関してOECDが発表した文章の一部を紹介します。
- OECD は、ひとつの文が300語未満で、合計800語未満の文章なら、文書による許諾無く複製しても良いとしていますので、下記発表文中の報告書内容を要約した文を、OECD の文書による許諾無く、日本語に訳したものを掲載します。 この翻訳の文責は全てWMC主宰者にありますが、原著作権は、OECD にありますので、その扱いは、OECD の定めに従ってください。
報告書の主要点
- OECD 加盟国のほぼ3分の1の国で、ピア・ツーピア (P2P) ネットワークからファイルをダウンロードしたユーザは、2004年10月に1千万人に達した。
- ファイル・シェアリング・ソフトウェアは、本来、革新的で将来有望な技術ではあるが、多くの P2P ユーザは、音楽に限らず、ビデオやソフトウェアでも、不正コピーをしている。
- 音楽業界の全収入が、1999年から2003年にかけて20%低下したこととの因果関係を証明することは困難だが、デジタル海賊行為は、合法的なオンライン・コンテンツ市場を成功させるための重要な障害になっているのかもしれない。
- 2004年は、合法的なオンライン音楽サービスが利用できるようになる転換期となった。2004年末には、米国と欧州で230サイトが百万曲以上をオンラインで提供した。
- このオンラインビジネスモデルで、第三者サービスによるオンライン音楽販売から直接収入を得るのは、主にレコード会社である。現時点の環境では、オンライン音楽提供者の粗利はほとんどなく、卸価格と小売価格の設定に問題を投げかけている。
- オンライン音楽販売の収入が全収入に占める比率は極めて少ない (1-2%) が、2008年には3から5倍になり、全収入の5〜10%になると予測されている。加えて、家電メーカ、パソコンと通信事業者および新しい中間事業者(例えば、デジタル権利管理ソフトウェア)に明確で顕著な波及効果をもたらす。バリューチェーン参加者たちが、バリューチェーンの異なった機能を垂直統合しようとする努力は、オンライン音楽配信に向かう傾向にある。
- 価格の見地からは、一曲単位に価格分離することは、音楽消費者にとって有利に働く。しかしながら、「価格分離による文化の犠牲」を引き起こすかもしれない。すなわち、アーティストにとっては、「商業的」な提供が減少することによって、有意義な社会参加が損なわれるかもしれない。
挑戦と政策に間する考察
- 標準化と技術的なインターオペラビリティ:オーディオ・フォーマット、デジタル著作権管理(DRM)フォーマットおよびハードウェア装置の非互換性がオンライン音楽の成長を阻害する。バリューチェーンの垂直統合とある標準に消費者を囲い込む可能性によって、小規模で革新的な事業者が競争できる環境の維持に注意を払うべきだ。
- 知的財産権の保護:インターネット海賊行為に対して政府が一歩踏み出す重要性を強調する。公の政策は、管轄を跨いだ(多様な権利の認可)インターネットの著作権に対する責任を確立する複数の異なった方法に注意する必要がある。
- デジタル著作権管理(DRM):DRM は、新しいコンテンツビジネスモデルに欠くことができないが、まだ、しばしば不正利用を防ぐことに失敗している。透明性、プライバシー、および比較的利用権を制限すること(例えば、正当な利用を拒絶する)にも関心を払わなければならない。
日本でも有料音楽配信が離陸? (June 12, 2005)
- 去る6月7日付けの日本経済新聞に、アップルが日本でも音楽配信を8月から開始するとの記事が出ました。
- この記事の中に、「ネット音楽配信が日本でも本格離陸しそうだ。」と書かれていました。
- アップルが日本での配信に踏み切れなかった理由は、日本の大手レコード会社が、CDの売上減を懸念して、楽曲の提供を拒んできたからだとされています。
- 彼らもついに時代の流れには逆らえなくなったのか、東芝EMI、コロムビアミュージックエンターテインメント、エイベックス・グループ・ホールディングスなどが、アップルのサービス開始当初から楽曲を提供する見通しのようです。
- ただし、価格は、米国の99セントに対して、日本では、150円前後になるとのことです。また、アップルのサイトではまだ発表されていないようです。
有料音楽配信が離陸 (February 20, 2005)
- 先に掲載しましたメモ音楽配信がCDを置き換える?は、米国で有料音楽配信が離陸したと言う記事がきっかけとなりましたので、今回は、その件について書きます。
- これまでも何回と無く主張しておりますように、ネットワークによる音楽配信は全て違法コピーであるかのごとく、その活動を制限しようとするレコード会社の主張に反して、大部分の音楽ファンは窃盗行為などしたいとは思っていないことが徐々に明らかになってきました。
- 米国時間2005年2月10日に Ipsos から発表されました調査結果によりますと、2004年12月の時点で、音楽ダウンロードを行った経験のある米国ユーザーの47%が代金を支払いました。これは、2003年12月の22%からは2倍以上、2002年12月と比べると5倍以上に拡大しています。最近の数値から単純に推計しますと米国民のうち2千4百万人が有料音楽配信を利用している計算になります。
- この調査は2004年12月4〜9日にかけて、12才以上の米国人1112人を対象にアンケートを実施したものです。性別、年齢別の調査結果は Ipsos が発表したグラフのとおりです。
- この結果から、これまで音楽配信にお金を払わない筆頭と見られていました17歳以下でも半数以上がお金を払って配信を受けています。これまでの業界の意見とさらに違った印象を受けるのがこの需要の牽引役が若年層ではなく、25〜54歳の層であることです。
- これまで、コンピュータおたく的な若者が、MP3などの音楽ファイルを同様の趣味を持つ相手と無料で交換していたことが目に付いていましたが、iPod 等による商用音楽配信が普及するに連れて、一般の音楽ファンがネットワークを利用した音楽配信を利用するようになってきたのであろうと思います。現に同じ調査の中で、ファイルシェアリングによる比率が年々下がり、有料配信の比率は年々向上しております。2004年の調査ではこれらの比率が同率となりました。近い将来有料配信の比率のほうが圧倒的に高くなるのではないかと思います。
- この推測が正しければ、レコード会社も不法コピーなど恐れすに音楽配信を積極的に行っても良いのではないかと思います。
もちろん、「世に泥棒の種はつきまじ」ということで、用心はしなければならないでしょうが・・・
音楽配信がCDを置き換える? (February 13, 2005)
- これまで、WMCでは音楽流通方式の革新がもっと促進されるべきだと主張してきました。
- これまでの、CDに代わって、ネット配信が主流を占めるようにすることによって、聴衆だけではなく、音楽のクリエータにとっても演奏家にとっても利便性が高まると考えています。
- ひとりCD会社のみ収入が減ると頑強に抵抗しています。実際、ネット配信が主流を占めればCDの市場量は減少するでしょう。その代わり、新しい流通市場によって収益をあげる会社が出てくるでしょう。現時点では、その会社は米国Apple社のみのように見えますが、将来は多分そうはならないと思います。
- ところで、ネット配信が普及すれば、CDは姿を消すでしょうか?CDそのものがいつまで残るかは問題ですが、CDに替わるのは、DVDのようなポストCDで、情報ネットワークによる音楽配信ではないと思います。
- それはちょうどラジオが普及しても新聞はなくなっていないように固体媒体による音楽再生の要求は今後も相当永く残るように思います。
- 現に、今でもネット配信を受けた音楽を iPod のような媒体に固定して再生すると言う利用方法が普通に行われていることからも言えると思います。固体媒体には固体媒体としての利便性があるのでしょう。