東芝時代のプロスタール論文
内分泌療法をすると前立腺は数ヶ月で約3割縮みます。
これは前立腺肥大症でも前立腺癌でもそうです。
このことを1986年の段階で、
96例もの症例を元に報告した論文があります。
私たちが東芝病院から発表したものです。
私は医者になって2年目に1年と、医学博士になった直後の
4年間、東芝病院に勤務しました。
平成1年に東大医局長選挙で番狂わせがなければ、今も東芝社員だったかもしれません。
そしてひょっとしたら、
シドニーの超音波医学会には東芝社員として参加し、
東芝のブースの中に座っている側の人間だったかもしれません。
なんでこんな古い論文を持ち出してきたかというと、この3割縮む、というのを、100例近いデータをもとに示したのは、
たぶん当時はこの論文だけだったと思うからです。
この論文は、プロスタール(前立腺肥大症に最初に適応になった抗アンドロゲン剤)を売っていた帝国臓器(今の、あすか製薬)のプロモーションにも使ってもらえました。
最近、
前立腺肥大症治療薬や
過活動膀胱治療薬を扱っている会社の
MRさんが、論文のコピーを持って来られる事があります。
中には、びっくりするほど稚拙な内容の論文もあります。
20~30例に投与し、前後で
症状スコア(点数化した問診表)を比較しただけ。
そんなレベルの低い論文を、専門医のところに持って来ていただいてもあまりうれしくはありません。
皮膚科に関してはどのレベルの参考文献も喜んでいただきます。
皮膚科専門医ではないので。
セカンドオピニオンを聞きに来られた方で、すごく勉強されている方がおられました。
その人は、前立腺肥大症と前立腺癌を合併した方。
小線源療法の希望ですが、大きすぎるため、そのままでは小線源療法ができません。
大きいと、沢山小線源を植え込まなければなりません。そうするとその人が体内に抱える放射能が、日本の基準(唯一の被爆国なので厳しい基準)を超えてしまいます。
電車で隣に座っている人が被爆する可能性があるからです。
その人は前立腺を縮めるために6ヶ月間内分泌療法を行いましたが、目的の大きさにはならず、小線源療法はやってもらえませんでした。
「普通ならどれくらい縮むのか?」と主治医に聞いたら、「3割」との答え。
その人は3割ちゃんと縮んでいたのに、目的の大きさにならなかったのです。
「3割しか縮まないと分かっているなら、最初から私には小線源療法は無理だとわかっていたはずだ。」
これがセカンドオピニオンと言えるのかどうか分かりませんが、「おっしゃる通り。」としか、コメントできませんでした。
内分泌療法をすると前立腺は数ヶ月で約3割縮みますが1年続けてもそれ以上は縮みません。
中止すると元に戻りますが、再投与でまた約3割縮みます。
これぐらいしっかりしたデータが詰まっている論文なら、MRさんからもらう価値がありますよね。
近々、
当院でお昼に、
アボルブ勉強会を開く予定になっています。
くノ一の面々と事務長に「抗アンドロゲン剤で前立腺は3割縮む」という予備知識を持っておいてもらう事も目的にしたブログでした。
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