1. 楽器の概要


フランス・オーベルタン社製作の「ベツレヘムの星」は二段鍵盤と足鍵盤、8ストップを備えて

います。音楽的には、
J. S. バッハをはじめとするバロック音楽にふさわしい楽器としてイメー

ジされ作られました。小型ながら音色が多様に変化するフランス古典音楽にも対応できるような

音色構成
(ディスポジション)となっています。






 
  
Orgue Aubertin (2006), "Etoile de Bethléem"
 



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2. ディスポジションの設定 

 

オーベルタン氏には事前にサロン de アデルフィアに下見にきていただきました。

そのほか約一年、メールや電話で何回もやりとりがありました。ディスポジョン

の部分について記憶を頼りにいくつか記します。

             

依頼
バッハのトリオソナタなどが明るく軽快に響く楽器に。それと同時に、フランス古典形式の作品演奏をなんとかカバーできるディスポジションにしたい。そのためにリードは必ず入れる。足鍵盤はFond系のしっかりとした8フィートがあれば、16フィートはなくてもかまわない。
→Fond系の8フィートのみのほうがこのサロンらしい響きとなる、と相談のち最終判断。
リードとして何を使うかについて。
→イメージは Cromorne。しかし Cromorneはサロン de アデルフィアには強すぎるので、Regalでソフトに調整。
    リードとNasardの関係について。
→フランス古典型のデュオに対応させるため、リードとNasard は異なる鍵盤に配置。
手のカプラーについて。II/I とI/IIのお互いに両方にかけることは可能かと質問。
→天井高の問題から無理と回答。
    当初予定されていたSuavial 8’ について。
→Portunal 8’に変更。
足のストップについて。フランス古典作品によくみられるFlûte 8’ はどうかとの問い。
→サロン de アデルフィアには、足のFlûteは強すぎるとの回答。
さらに、Bourdon 8’ のみで、古典特有の発音が可能か? との問い。

このときのオーベルタン氏の説明が大変ユーモアあふれて、とてもおかしかったので、以下に。

「いいかい…、ワインを飲むときのことを考えてごらん。このラベルの絵、この銘柄といって味を予想しながら買うだろ? しかし実際にコルクをぬいて中身を味わってみると、ほう、こんなにしっかりした味だとは、香りもこんなにねぇ、となって最初の印象と違うことは山ほどある。ラベルだけで判断してはいけないんだ。オルガンのストップだって同じこと。Bourdon 8’ という名前だけで判 断してはいけないのだよ、いいかい…、私の作るこのBourdon 8’はたいへん効力のあるefficaceストップだ。いままで作ってあげた人が『おおっ、こんなにしっかりしたBourdon だったとは!』 と感嘆の声をあげるほどなんだから…」。


そしてディスポジションが決まりました!トリオソナタは明るく、軽快。フランス

古典作品を弾けば小型の楽器ながら伝統の香りがします。足の Bourdon 8' はとても

よく鳴り、試奏した方が『おお、こんなにしっかりしたBourdon だったとは!』 と

おっしゃって下さいます。オーベルタン氏、さすがです。

                                           

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3, 下見、フランス、ジュラ地方へ


          
正式契約から一年半後、完成に近づいたとのことで、確認と見学をかねてフランスのジュラ地方にあるオーベルタン工房におじゃましました。



まず、「ベツレヘムの星」を製作したB. オーベルタン氏をご紹介しますと、現代のフランス・オルガンの分野では唯一、メートル・デ・ザール(日本の人間国宝にあたる)の称号をお持ちです。2007年にはレジオン・ドヌール賞にも輝いていますが、フランスのオルガン建造家でこの称号が与えられたのは19世紀の名匠カヴァイエ・コル以来とか。


オーベルタン氏の代表作のひとつとしては、フランス、パリのサン・ルイ・アン・イル教会のオルガンが有名です。パリの真ん中に位置するシテ島は、パリ発祥となったもっとも古い地域です。同教会の建物も歴史的建造物に指定されています。



        
セーヌ川からシテ島をのぞむ            サン・ルイ・アン・イル教会大オルガン



画像が暗すぎる~ 。
大抵のヨーロッパの教会の中は高い天井からの自然光にたよっていて、格調高いのですが写真をとるには少し薄暗いことが多いです。また、写真が許可されてもフラッシュはだめなことが多く、しろうとには良い画像をとるのが難しいです (言い訳かしらん?)。


ということで、オーベルタン氏が自ら送って下さった2008年現在最新のオーベルタン・オルガンの写真を。イギリス、オックスフォードにある聖ヨハネ教会のオルガンです。


                
                 Orgue de St John d' OXFORD





そして、そのオーベルタン氏の工房があるのが、フランスのジュラ地方。世界最速の高速列車TGVでパリから南へ、二時間ほど下ったところにあります。



 ジュラ地方の朝です。



ジュラ地方はあの「ジュラシック・パーク」の "ジュラ"で、恐竜の化石がたくさん出土するそうです。洞窟も点在します。

 この岩肌。うーん、いかにも何かでてきそうです。



ジュラの名産はヴァン・ジョンヌとよばれる黄色い甘いワイン、チーズのコンテ、モンドールなど。コンテチーズはワインと混ぜてフォンドュもよし。モンドールもオーブンで焼いてとろとろに。最近はいずれも日本で手に入ります。


とあるチーズ屋さんの風景


           
ジュラのレストランでのお料理の数々


アルザスに近いので、少しお山風。フランス+ドイツ風という感じ? デザートに添えられている赤い実はグロセイユというもの。絞ってジュースにしてのんだりもします。



あら?ついつい、お話がそれてしまいました(^^)。本題にもどりましょう。




オーベルタン工房全景。古い使われていなかった修道院を改修したとのこと。巨大な楽器を建設するのですから広い場所が必要です。



         
上の建物です。                      敷地内の運搬用トロッコ…乗りたいな…




気さくなお人柄のオーベルタン氏が、みずから工房内を案内してくださいました。


            
パイプはこうやって音を確かめてから…、、        こうやって調整してるんだよ。


 大きなパイプはみなで共同作業。


工房内風景

       
写真上部に見えるのは、作りかけの小型オルガン    整然とならび出番をまつパイプ。
二つ。前述のシテ島やオックスフォードの例のよう
にもっと大型で高さのあるものを作るときには、手
前に見えている四角い穴を利用するそうです。

 

あまりにも幸運なことに、「ベツレヘムの星」の試奏にはM. シャピュイ氏が同席してくださいました。現ヴェルサイユ宮殿のオルガニストです。

                   
          「うん!これでバッハのトリオとかを弾くのはとってもいいよ」
                            
イメージ通りの評価に大喜びしました。





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4, 設置 ~日本へ~



いよいよ、サロン・de・アデルフィアに搬入です。


当日は晴天!                                                      コンテナ三台に分けて運ばれました。


 中身は無事かな? 


 床は部品だらけ。見えているのは木のパイプです。


 鍵盤下の部分、これから足ペダルが組み込まれます。


 手鍵盤とその奥の部分です。


 四人がかりでよいしょ!


 最後の調整中。パイプは全部で500本弱あります。






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5, 完成、そして命名「ベツレヘムの星」

                                               

さて。どうして、アデルフィア・サロンのオルガンは「ベツレヘムの星」と名づけられたのでしょうか?
なんと名付け親は小さな女の子です。

 

楽器の建築中には、何人かの方が見学にいらっしゃいました。

 

そこへやって来たのが、お歌をうたうのが大好きな当時4才のおしゃまな女の子「ことちゃん」。
お母さまと一緒に来て、じっと静かに熱く、しばらく作りかけのオルガンを見ていました。

そしてとつぜんお母さまの手をひっぱり、小さな指でオルガンの上部にある星の彫刻をさして言いました。
「ねぇ、ねぇ、お母さん!」
    「あそこにあるのはベツレヘムの星なの?」。  ho_ani4.gif

ho_ani4.gif        




「ベツレヘムの星」とは聖書物語に由来します。クリスマス・イヴの晩にあらわれ、博士たちを導いた星のことです。


すごいね!なんて心あたたまるイメージなんでしょう!

感動した大人たちにより、アデルフィア・サロンのオルガンは「ベツレヘムの星」と命名。サロンを訪れた方々にも評判は良く、「ぴったりな名前ね」「名前、気にいってるわぁ」とお褒めいただきます。


最初のコンタクトから約三年、製作に二年が費やされ、二十年の思いをかけたオルガンが完成しました。名前とともに長くみなさまに愛されるオルガンとなりますように。オーベルタンさんありがとうございます。皆様にもことちゃんにも、感謝を申し上げたいと思います。

                                                  

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αδέλφια

パイプオルガン「ベツレヘムの星」



56notes

8'
4'
2 2/3’B/D




8’
4’
2’
8’

30notes

8’

M. Kurosawa

1. 楽器の概要

2. ディスポジションの設定 難易度☆☆☆ 

3. 下見、フランス、ジュラ地方へ

4. 設置~日本へ~

5. 完成、そして命名「ベツレヘムの星」



「ベツレヘムの星」と名づけられたサロン de アデルフィアのパイプ
オルガン。サロンのために注文製作された、フランス製の楽器です。
設置から完成、命名までの経緯についてご紹介したいと思います。



1 Grand-orgue C-g’’’

Portunal
Montre
Nazard


2 Positif C-g’’’

Bourdon
Flûte
Flageolet
Régale

Pédale C-f’

Bourdon

Tremblant doux II/I, I/P, II/P

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