アボルブで尿閉リスクは半減
先週、前立腺肥大症に適応の取れた抗男性ホルモン薬が発売されました。
デュタステリド(商品名アボルブ)です。
プロスタール・パーセリン以来、久々です。
フィナステリドが日本での治験で有用性が示せず、前立腺肥大症治療薬としては発売できませんでした。
フィナステリドはAGA治療薬として、
プロペシアとして販売されるだけとなりました。
アボルブはプロスタールと同じく、前立腺を数ヶ月で約3割縮小させます。
その結果として、尿閉が起こるリスクを半減させます。
ランダム化比較試験では、1年間に起こる尿閉が
プラセボ群では4%、アボルブ投与群では2%でした。
つまり、100人にアボルブを投与すると投与されなければ尿閉になったであろう人のうち2人が尿閉にならずにすみます。
こう計算していくと、
50人に投与して利益を受けるのは1人だけ、という結論を導くこともできるわけです。
なので、より尿閉を起こしそうなグループを選んで、アボルブを処方することが必要になるかもしれません。
前立腺がかなり大きい人、
過活動膀胱を合併しているので、
抗コリン剤を投与しなければならない人、
などが、アボルブの恩恵をより大きく受けるグループかもしれません。
PSA健診が前立腺がんの死亡率を下げる、というランダム化比較試験が出ることを多くの
泌尿器科医が待っていました。
今年の3月に「PSA健診が前立腺がんの死亡率を2割下げる」という論文が出たわけですが、
同時に、「
一人の前立腺癌死を減らすために、48人余計に前立腺癌患者を治療しなければならない」という事実も明らかになりました。
アメリカ泌尿器科学会は、
生検すべきPSAの閾値を決めないことにガイドラインを書き換えました。
一人を救うために
何人に余計な検査・治療をすることが許されるか、という価値判断に議論が変わってきます。
インフルエンザワクチンを1000人にやると、やらない場合より何人の感染を防げ、何人の死亡を減らすことができるのか、という議論に似てきます。
ただ、インフルエンザの場合は、地域でワクチンを受けた人が増えると、流行しにくくなって、ワクチンを受けていない人もかかりにくくなるので、計算は複雑でしょうが。
[横浜市都筑区センター南駅木村泌尿器皮膚科院長日記一覧]