大天使のお話なのだ

はじめに神は天と地を創造された。神は「光あれ」と言われた。

アダムとエバがエデンの園を追われてから、彼らの子供たちが増えて増えて増えて増えて相当の人口が地上にはできました。
時は流れ、なーんか国とか作っちゃって、本来「人類皆兄弟」の理屈が、だんだん「人類他人は他人」と言う方向へ流れていきました。
 まぁ、計画どおりだから、それは良いが、大天使達は多くの人間の中から神に選ばれた人間の下へ
奇跡を起こしに出張へ出る事が多い。簡潔に言えばパシリである。
 さて、いつもは仕事で忙しいのでほとんど顔を合わせることの無い大天使達は、月に一度大天使会議を開いて互いに仕事のグチや上司の悪口を言い合っては慰めあっているのであった…。ここに、そんな天使の赤裸々なる仕事振りの「ほんの一部」をご紹介しよう。

ガブリエルの話

ラファエルの話

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マリアの受胎告知
  <その1・ガブリエルの話>

私は大天使の中で紅一点のガブリエル
自慢じゃないけど、パシリ仲間達の中では結構重要な仕事をしていると自分では思っているワケよ。
この前の私の大仕事の話をしてあげるわね。

なかなか子供のできない哀れな夫婦・ヨアキムアンナが、断食までして神に祈り、やっとできた娘が後の聖母マリアとなるのよ。
2人は奇跡の娘・マリアがアンナのお腹の中にいるときから、子供を授けてくれた神に感謝し、生まれたきた子供は男の子でも女の子でも、絶対に神に仕えさせようと決めていたワケ。
そして生まれたマリアは、3歳の時に神殿に奉公に行きになったワケ。(ちなみにマリアにはパロギタって言う妹がいたけど、この子は私担当じゃないから知らないわ。)、
マリアは神殿で、鳩や天使と遊んだり(一般人には見えないからちょっとアブない子だと思われたかも)、
お裁縫や読書と、まぁ一般的な娘と同じ様に生活しながら大きくなっていったわ。
マリアが12歳になると、奉公していた神殿の司祭ザカリアが天の声を聞き、マリアの夫選びを始める事になったわ。
え、12歳は早いって?なーにいってるの、ヨユーよヨユー
司祭は天の声の言う通り、集めた男たちに木の棒を配り、一斉に天に向かって掲げさせたわ。
すると、その内一本の棒に鮮やかな花が咲いたのよ。これが合図だったワケ。
その棒を持っていたのはヨゼフと言う名の男。
マリアとは20も30も歳の離れた男だったけど、まぁ、問題無いわね(ある?)。
マリアはヨゼフと結婚して、ナザレと言う街に幸せに暮らしたわ。

…ふぅ。ま、ココまでは、言ってしまえばどうでもいいのよ、私には。さ、本番よ。
ある日水汲みに井戸へやって来たマリアの背後に私はそっと忍び寄ってわわやいたわ。
「マ〜リア〜♪祝福された聖なる母となる女性〜♪」
「え!?」
マリアはビックリして立ち上がり、辺りをキョロキョロ見渡したけど、
直ぐになんだか脅えた様子で帰っていってしまったわ。
うふ。この私の美しい姿に気付かないなんて、オッチョコチョイさんねぇ。
なんてったって、この時私は一ヶ月前から用意しておいた一張羅に、
それはゴージャスな「純潔の証」のユリの花を持って、それはそれは「天使」の代名詞のような姿だったし。
あぁ、私の美しさに驚いて逃げちゃったのかしら?とりあえず、後を追わなきゃね。

家に帰ったマリアは、部屋で読書をしていたわ。
私は今度は堂々と入り口から入ってマリアに分かるように声をかけたわ」
「マ〜リア〜♪貴女の事よ〜♪清らかな乙女〜」
 ―ボトッ…
マリアは硬直した顔で持っていた本を落としたわ。
あーん、やっぱり天使を見て驚いているのね、うふふ。とりあえず私は仕事の伝言を届ける必要があったわ。
「マ〜リア〜、貴女はやがて〜神の子を……」
「きゃーーーーーー!いやあああーーーーーー!」
「その子には〜、イエスと……」
「オバケェェェーーーーーーーーーーーーーー!!」
「彼は……」
「たーーーーーーすけてぇぇーーーーーーーー!!」
「聞けや、このアマ。(スパーーン☆)」
マリアは驚きながらも、神の言葉を運んできた天使に感動しながら、私の言葉を受け取ったわ。
私は彼女に伝えたの。

マリアはやがて神の子を産むという事を。その子には「イエス」と名付けるように、と。
その子はやがで地上の多くの人々を苦しみから救う「救世主」になる事を。

そしてマリアは最後に言ったわ。
「神の御意志に従います。ありがとう、美しい天使様」、とね…。

「早く!分かったから早く帰って!私も夫もオバケは嫌いなのよ!」
「天使じゃゆーとるじゃろがぁ!(スパーン☆)」

END
※このお話は語り部のガブリエルによって多少事実を捻じ曲げられています。

 トビアとサラとラファエル
  <その2・ラファエルの話>

ボクはエリート4大天使にその人有りと言われた、癒しと旅の耽美系大天使(?)・その名もラファエル
ビジュアル系シンガーに名前を流用される確率が一番高いのは何を隠そう、このボ・ク♪
ま、これも耽美系として天使やってる限り、宿命ってヤツ?

ある日ボクは優雅にネイルケアーをしながらローズティを楽しんでいるとそこへ…
「暇そうだな、ラファエル。ちょうどいい。この仕事頼むわ。なんか内容の同じ件らしいから」(パラパラ)
ホワーーーイ!?このボクの何処が一体どうして暇そうに見えるのかな!?こんなに忙しいのに!(ネイルケアーが)。
ボクは仕方なくその内容が似ているらしい2件の書類を手に取った。

 ---任務達成条件;以下の手紙の差出人を処理せよ。
      手紙1:こんなつらい思いをしながら生きるくらいなら、死んだ方がマシです。
      手紙2:こんなつらい思いをしながら生きるくらいなら、死んだ方がマシです。

…なるほど。確かに似ている。つーか、文面自体は同じじゃないカ。
どーせ似てるなら、一気にスパっと処理できないものかね〜?

(--ラファエルの口調が疲れるので、以下3人称でお送りします--)

「天界何でも悩み相談所」に宛てられた手紙の差出人の1人はトビトと言う名の男だった。
彼はアッシリアの首都ニネベに住むイスラエル人。とても信仰深く慈悲深い。
当時のアッシリアはイスラエルとは仲が悪かったのだが、トビト的にはアッシリアに住む人もイスラエルに住む人も皆同じ。
アッシリアで亡くなったイスラエル人を手厚く葬ったりしていたら、
その事を町の人たちにアッシリア王に告げ口されてしまった。
反国行為を行ったとしてトビトは財産を没収されてしまい、彼とその妻と息子のトビアは途方に暮れていた。
しかもトビトはスズメの糞が目に入ったとか何とかで失明までしてしまった。
あの手紙はそんなさなかで書かれたもののようだった。

さて、トビトはそんな中、昔メディアに住む知り合いのガバエルに金を貸した事を思い出した。
利子も積もり積もり、今返してもらえば結構な額のはずだ!
失明した為歩けないトビトは、息子のトビアを使いに出す事にした。
しかしメディアは遠い。
トビアはそんな遠くまで一人で行った事がなかったのだ。
不安をかかえつつも、トビアは一人一路メディアを目指して旅立った。
「っヘーイ!そこのボク〜?もしかしてメディアへ一人旅とかだったりしないカーイ?」
突然電柱の影から妙に派手派手しい一人の若者が飛び出してきた。
「なんだ、アンタ!?確かにメディアに行くけど…」
「ホーゥ!そいつぁ偶然!実はボクもこれからメディアへ行くのさベイビー!
旅は道ずれ・世は物乞い!一緒に行かないかい?」
「本当?実は一人で心細かったんだ。一緒に行ってくれるなら(あんま関わりたくないタイプだけど)助かるよ」
「OK・ベイベー!ボクの名はアザリア〜。キミは〜?」
「トビア…。どうでもいいけど、香水、キツいね…」

こうしてトビアはアザリアと名乗る若者と共に旅をはじめた。このアザリアという男、やたらにきめ細かく、
ことある毎に水筒を取り出しては「水分取らないとお肌が荒れる」と言いつつ水を薦めたり、
20分おきに疲れたから休むと言ってはどこから持ってきたのか、弁当を広げるわ、
しかもその弁当が「昆布を食べないと髪の艶が悪くなる」とか「美容にはトマトとホウレンソウが一番サ」とか言っ
てサラダを薦めたり毎晩9時には「夜更かしはお肌の大敵!」と叫びながら
強制的にキャンプを張って即・就寝してしまったりと…
まぁ、やや変わり者ではあったが、同行している間トビアはとても健康的だった。

道中、チグリス川付近でまた例によって疲れたと言い張るアザリアの為に
休憩をとっていたら、トビアは突如川から飛び出してきた怪物魚に襲われた。
「ひぃーーーーーー!デケーーーーー!」
「ひるむな、トビア!所詮は魚!陸に上げてレスリングに持ち込めばどうって事ナイさ! ノして今晩のおかずだ!
イケ!そこだ!カルシウム! 華麗にアン・ドゥ・ドルゥアアァァ!!! アン・ドゥ・ウルァアアアアッ!!」
「手伝えー!(^^;」
結局アザリアは手伝わなかったが、何とか怪物魚を倒したトビアは、
アザリアに言われて魚の肝汁を壷に入れて持っていく事にした(後は食べた)
「こんな生臭いものどうするの?まさか美容の為に肌に塗れとか言わないよね?」
「ノンノンノン。あとでちゃんと役に立つからしっかり持ってるんだよ。
あーちなみにその臭さでボクの半径3m以内には近づかないでくれないカーイ?」
「…薄情な。」
ボチボチメディア地方に差し掛かった頃、トビアはこの辺りに自分の親戚の家がある事をポロっとアザリアに漏らした。
「なに?キミの親戚はラグエルさんって言うのカイ?」
「そうだよ。知ってるの?」
「すぐそこんチダヨネ?確か娘にサラって子のいる」
「うんそうだけどあの子は…」
「ヨシ。泊まろう、トビア!」
「え?」
「野宿より屋根付の家で寝る方がずっと美容に良いんだ!サァ、そこんちに泊まるぞ!」
なかば強引にアザリアはトビアをラグエルさん宅に引っ張っていった。

アザリアが言ったようにこの家にはサラという娘がいる。
実は彼女が「天界何でも悩み相談所」にトビトと同じ文面を宛てた本人なのだった。
彼女の事情はどうだったかと言うと、彼女は既に7回結婚に失敗しているのだった。
何故だ分からないが、サラが結婚した男たちは皆、初夜のベッドの中で死んでしまう。
そんな事が7回も続き、ご近所にはサラは悪魔憑きだと陰口叩かれ、彼女もすっかり沈んでしまった。
「ときにトビア、あの娘可愛いと思わないカーイ?」
ラグエルさん宅で食事を出してもらい、赤カブサラダもモリモリ食べながらアザリアが唐突にそんな事を言い出した。
「美人でなかなかいい育ちの娘で、ちょっと陰りのある所が実にミステリアス。
おまけにキミと親戚とは、これはもう運命の赤い糸としか思えない!!」
「ちょっと待ってよ、彼女に関する噂はたった今説明してあげたでしょ…?」
「オーウ!愛した男たちに先立たれ、すっかり気を落としてしまった可愛そうな彼女の肩にそっと手を置いて、
『安心おし…。僕が君を守ってあげるよ…。僕は君を残して死にはしない!』…とかなんとか言って慰めてあげたいとか
思わないか、トビア!? イイ!カッコイイ!サイコー!夢の極楽鳥も言うだろう?『愛は何にも勝る美しさ』だと!」
一人で陶酔をはじめたアザリアの言う事を聞いている内に、トビアもだんだんサラに同情し始めた。
一月以上もアザリアと付き合っていて、スッカリ彼のペースに乗せられやすくなったようだ…。
ついに決心して(口車に乗せられて)、トビアはサラとその父親に、サラと結婚したいと申し出に言った。
サラはびっくり。父親も、反対したかったが娘の気持ちを思えばそれもできず、渋々二人の結婚は認められた。
「ト・ビ・ア〜♪忘れるところだった。コレを使うとイイよ〜」
トビアとサラが寝室に上がる途中で、アザリアは香炉をトビアに渡した。
「なにこれ」
「先週捕った魚の肝が入ったお香」
「臭いじゃん!!!」
「臭いけど、縁起と美容にイイんだって♪子宝に恵まれるんだって〜♪ウっヘっヘ〜」
「ヤらしい顔して言うなよ…」
「じゃ。がんばって。最初は女の子がいいナ♪フッヘッヘ〜」
「だからヤらしい顔して言うなって!」

その晩、サラの父親のラグエルは庭にザックザックと穴を掘っていた。明日死ぬトビアの墓穴である。
半分くらい掘り進んだとき、ラグエルはおかしな声を聞いた。
それは聞いたことも無い、寒気のするような低い声だった。
ラグエルは辺りを見渡す。こんな時間に誰も出歩いているはずが無いのに…
少し離れた自分の家を見る。どうも声はそっちからするような気がするぞ?
もっと言えば、薄く明かりのついている、娘のサラの寝室からだ…。徐々に声が大きくなっていく。その時だ!
「お魚キラ〜イ!お魚キラ〜〜イ!!!!お魚キラ〜〜〜〜イ!!!!」
風のような速さで何か黒いものがサラの部屋から飛び出して、ラグエルの横をすり抜け、エジプトの方へ飛び去っていった。
ラグエルには何が起こったのか分からなかった。
それがサラに取り憑いていた悪魔アスモデウスだと言う事は、結局誰にも知られなかった。

次の朝、目を覚ましたサラが見たのは、元気にぴんぴん生きているトビアだった。
家中が大感激で、トビアとサラの結婚式が盛大に行われた。
「おーい、トビア〜」
「あ、アザリア!見て、僕生き延びたよ!君のお香のお陰かも!(臭かったけど)」
「うんうん。もちろんさベイベー!ところで、ハイ。ガバエルさんとこの借金、返してもらってきたよ」
「え?君一人で行ったの!?つーかもう、行って帰ってきたの!?」
「そうとも!手紙もちゃんと貰って来たよ〜間違いないよ」
「悪いな、君一人に行かせちゃって…」
「なーにどうって事ないサ、キミは初夜で忙しかったしぃ〜?で、で、どうよ?うまいことやったかよ、ウ〜〜ン?」
「しつこいな君も…」

ともあれ、長かったトビアの旅もようやく帰路に立った。
借金も返してもらい、ラグエルさんにたくさん土産を貰い、
妻になったサラをつれてトビアとアザリアはニネベに帰ってきた。
またアザリアの薦めでトビアは帰ってすぐ
例の怪物魚の肝汁を使ってトビトの目を洗うと、父の失明が治ったのだった。
ああ、こんな幸せな事があろうか!トビアは父に言った。
「父さん、聞いてよ!みんなこのアザリアのおかげなんだよ!」
と、トビアを後ろを振り返ったら、そこにはサラとお土産物しかなく、アザリアの姿はどこにも無かった。

「はーははは!やっぱボクってテンサイ?さ、帰って心置きな〜くネイルアートでも楽しもうかな?」
その日、ニネベの空で妙に派手派手しいく香水臭い、高笑いをあげる大天使ラファエルの姿が目撃されている……。

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