普段はただのシスコン兄貴な太陽神・アポロンも、あれで実は子持ち。
妻は誰だか知らないが、息子のフェアトンがいる。
ところがこのフェアトンは不肖の息子…。
親父がオリュンポス12神の一人だというのに、自分は全く無名な一般ピープル…じゃない、一般ゴッドな事にいつもやきもきしていたのだ。
「おめー、本当にあのアポロンの息子なのかよー」
「えー全然威厳が無いってゆーかぁー?フツーってゆーかぁ?」
学校じゃいつもこうして馬鹿にされる日々。そしてフェアトンはある日一大決心をした。
父アポロンに「日輪の馬車」を1日貸して欲しいとねだる。
「日輪の馬車」とは、アポロンの商売道具(本人は竪琴の方が気に入っているらしいが)。
この神馬と燃え滾る黄金の馬車で、アポロンは1日1回天空を東から西へ駆け抜けるのである。
そう、彼が「太陽神」たる由縁とも言える。…え?太陽ってのは太陽系の真ん中でひたすら燃えているガスの塊じゃないのかって?…ま、天動説も地動説も無いこの時代、そう言う事にしておいてやりましょうよ。
とにかくフェアトンはその父親の凄い馬車に乗って、みんなに自慢したかったワケだ。
しかしアポロンは聞き入れなかった。
「あのねぇ、トントン(注;フェアトンの事)。この馬車はおとーさんでも扱うの大変なんだよ?なんせこの神馬が暴れ馬だから…」
経験の浅いフェアトンには無理だ、と言うことか。
しかしこれで食い下がるほど、日頃フェアトンが受けてきた屈辱は浅くない。
「そんな事ないやい!俺だっておとーさんの息子ならそれくらいなんとでもなるやい!貸してったら貸してやいやいっ!」
駄々をこねるフェアトンに、アポロンは仕方が無く1日貸してやる約束をする。
次の日の朝、意気揚揚と「日輪の馬車」で走り出すフェアトン。
しかしやはり…いや、当然ながら、アポロンにすら懐かない日輪の神馬は手綱取りのヘタクソなフェアトンの言う事を聞かない。
馬は加速し、道を外れ、バッチリ暴走を開始した。もうフェアトンが何を言っても止まらない。
暴走した日輪の馬車は地上の森を焼き払って砂漠に変え、人々の肌を焼いて黒くしてしまった。
「あんれま!オメーさん見てくんろ!畑がカラカラだんよ!」
「それよりアンダ自分を見てけろ!まっくろくろだべや!」
「はぁ!?ンだべ!メラニン色素が増えとるべがな!」
何も知らない地上の人間たちは大混乱。
この騒動に、オリュンポス最高神ゼウスが肩を震わせながら立ち上がった。
「おのれクソジャリ…!『俺の』色白きれーなおなご達を片っ端から顔黒渋谷系ギャルみたいにしてくれやがって…天誅ーーッ!!」
怒りの篭ったゼウスの雷撃は、走り回る「日輪の馬車」をフェアトンごと撃墜した。馬車とフェアトンはエリダヌス大河にポシャン♪と落ちてブクブクと沈んでいってしまった…。
フェアトンが死んだ事を聞いて、妹のヘリアデスは悲しんだ。
「お兄ちゃんは単純でお馬鹿でお間抜けだったけど…、ただ皆に認められたかっただけなのよ…」
ヘリアデスはエリダヌス大河のほとりで泣き続け、やがて体はポプラの木へと変わり、涙は琥珀へと変わったと言う。
このエリダヌス大河はやがてエリダヌス座となって夜空に輝く事になるのだが…
エピソードの主役たるフェアトンの名を取って「フェアトン座」ではなく、河の方が名が残るとは…。
やはりフェアトンはどう逆立ちしたって大物にはなれなかったようで、ちょっと気の毒。
で、アポロンとゼウスはと言うと、
「で、あの、明日から太陽はどうすりゃイイんすかねぇ、お父さん?」
「俺の…俺の白皙の美女たちが全員ココナッツ娘に…(涙)」
それでも太陽は昇る。日はまた昇りくり返される…らしい。
The
End
|