乙女座の女神の天秤

8月23日から9月23日生まれを守護する乙女座は誰よりも人間を愛した慈悲深い女神の姿を夜空に映した春の星座です。
9月24日から10月24日生まれを守護する天秤座は女神と共に善と悪を裁く秤を夜空に映した夏の星座です。
 

 

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かつて神々は人間と共に地上にく暮らしていた。
まだ僅かしかいない人類を、それこそ「人類皆兄弟」魂を駆り立てて、のどか平和に暮らしていた。
非力な人間たちに少しでも力を貸そうと、神々は温かい目で彼らを見守り、時には知恵を貸し、時には共に笑い共に泣いて来た。
神と人との調和は、この世を楽園にしていた。
女神
アストレアも、そんな人間たちをとりわけ愛しく思う心優しい神の一人だった。(アストレアはデメテルのニックネームだとか、ペルセポネのペンネームだとか色々説はあります)

しかし、平和はいつまでも続かない。
神と比べれば遥かに短命な人間たちは何世代にも渡って考え方が異なって行く。
やがて
銀の時代銅の時代と移り行く上で、彼らは『戦争』をはじめるようになる。食物・土地・財産の略奪に夢中になる人間たちを見て、やがて神々は絶望して行く。
「バッカじゃねーの、あいつら?せっかく数が増えてきたってのに、何お互いに殺しあってんだ?」
「やっぱー、所詮ー、単細胞は単細胞ってコトじゃない?」
楽しく酒飲み、のんびり暮らせない地上になど用は無い。
神々は徐々人間に愛想をつかしてに天界へと引き上げて行った。
しかし、アストレアはそんな彼らに反発する。
「なんて無責任な事を言うの!?今まで彼らを見守り続けてきたのは私達神々!
こんな時代にこそ、私達が彼らを信じてあげなくてどうするの!?」
が、アストレアの意見に賛同する神はあまりいない。
神にとって、ほんの50年足らずしか生きられない(当時はもっと早死にだったでしょう)人間のほんの一時の愚行までどうしろこうしろと言ってやる価値は無かった。
「あいつらちょっとおかしくなっちゃったのよー。どうせこのまま殺しあってれば、その内戦うやついなくなって元通りになるよ。そしたら戻ってこようよ〜。ねー、帰って麻雀やろうよ〜アストレア〜」
「『おかしく』ですって?ちょっとグレちゃっただけよ!すぐに過ちに気付くわ!でも、放っておいたら多くの尊い命が失われるわ。私はここに残る!」
「まーったく物好きね〜。あたし、帰るよ?じゃあねー」
ついにアストレア唯一人を残して、全ての神々が天界へ帰ってしまった。
それでもアストレアは人間を信じ続けた。その思いとは裏腹に、地上はやがて
鉄の時代と突入し、
戦争はこれまでに無い激しさを見せ始めたのだった。
若い男たちは戦争へ狩り出され、土地は痩せ、子供らは飢え、女たちは敵国の男たちに攫われ、兵たちは剣に付いた血を誇りにした。かつての神々の事など忘れ、侵略と略奪に明け暮れ、それを正義だと言い張った。
そんな地上の姿に、アストレアもついに失望した。
もうたくさんだ。もう見ていられない。アストレアは高く高く空へ舞い上がり、争いの無い故郷への帰路にたった。
帰り際、アストレアは一度だけ後ろを振り返った。

 一体私達は何を間違ってしまったのかしら?
 どうしてこんな事になってしまったのかしら?
 あんなに平和だったのに。
 人間たちが豊かになるようにと願って、様々な助言をしてあげたのに。

アストレアは息を呑んだ。「それがいけなかったのかしら?」
 無垢で無知な彼らに、知識を与えた事。
便利だから、と鍛冶を教えた事。
神の名の元に作られた国家。
「私たち神が人間に干渉した事が全ての始まりだったのかしら?
私達は、何もしないでただ動物と同じレベルの人間たちを見ていればよかったのかしら?
…神と人間の調和が、誤りだったのかしら?」
何だか悲しい。もう二度と地上には降りない。そう誓って、アストレアは再び飛び立った。

やがて女神アストレアは、夜空から遠く離れた地上を乙女座になって見下ろすようになった。
死んだ人間たちの魂があの世へ行く前に、
天秤座の天秤で自分の羽ペンとの重さを比べ、羽ペンより軽ければ天国行き、重ければ地獄行き、と裁くようになった。
それは、地上で人間を救えなかったアストレアが、死後の人間を救おうとするせめてもの償いの行為だろうか?
今アストレアの姿は、正義と裁きの神の像として世界中の多くの裁判所に飾られている。
しかし彼女が地上に戻ってきてくれる事は、この先決して無いだろう…。

The End