琴座のオルフェウス

夏の大三角形を作る一等星の一つ、ベガが日本でも織姫星として馴染みがある。
このベガを含む星座・琴座の悲しい持ち主の神話

 

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トラキアの音楽家オルフェウスは、それはそれはと言うほどの竪琴の名手だった。
彼は
ニンフエウリュディケに恋をし、彼女に自分の愛を琴の音に乗せて詠った。
感動したエウリュディケはオルフェウスを受け入れ、二人はめでたく結ばれた。
「愛してるよ、エウリュディケ」
「ありがとう、あなた。私は今とっても幸せよ」
めでたしめでたし。 じ・えんど。

 …………は?面白くも何とも無いとな?むしろムカつく? さすがですね、お客さん。実は話はここからです。

新婚アツアツの2人だったが、その幸せは長くは続かなかった。
ある日エウリュディケは毒蛇に噛まれて死んでしまったのだった。
オルフェウスは嘆き悲しんだ。当然だが嘆き悲しんだ。
天国から突き落とされた気分だ。何もかも暗い。
この世はまるで冥界だ。…冥界?そうだ!このまま諦めてなるものか!冥界へ行って、冥界の王
ハデスに頼んで愛しい妻を帰してもらおう!きっと話せば分かってもらえるサ!

オルフェウスは無謀にも単身で冥界へ乗り込んだのである。
死者の魂を司る地下世界。竪琴一つ抱えてオルフェウスはその入り口へやってきたのである。
「我は冥界の門を守る番犬
ケルベロス。生ある愚かな人間よ、その領域を犯した罪により、我が牙の餌食となれ」
何かカッコイイ事ほざいているワンワンがいる。
オルフェウスはワンワンに向かって「おすわりの歌」を奏でた。
するとケルベロスは眠ってしまった。
こうしてあっさりと冥界の門をくぐったオルフェウスはその後も襲い来る冥界の住人を竪琴で眠らせ、ついに玉座の間へ辿り着いた。
「わはははは。よくぞここまで辿り着いたな。私は冥界の王ハデス。そしてこれは我が妻
ペルセポネだ」
「……」
機嫌の良さそうな冥界の王ハデスと、なんか元気の無い王妃ペルセポネ(神々の資料館>「ハデス〜」参照)に向かって、オルフェウスは先日死んだ妻を返して欲しいと訴えた。
「そりゃ駄目だ。生と死のルールに反する」
「そこを何とか」
「だめ」
「お願いですから」
「ムリ」
聞き入れてもらえず、オルフェウスは悲しみのあまり竪琴を奏でた。何とも切ない、悲しい音色。
「…素敵な歌だわ(ポツリ)」
ペルセポネが呟いた。
「おおおッ!?我が妻、ペルセポネが喋った!? 地下に来て以来、一切合切、私に口を聞いてくれなかったペルセポネが!」
オルフェウスの竪琴に感動したペルセポネと、それを喜んだハデスは、オルフェウスの願いを承諾した。
「ただし、条件がある。おめーの妻の魂は返してはやるが、2人で地上に戻るまで、絶対に後ろを振り返らないこと。いいな?」
オルフェウスはエウリュディケの手を引いて冥界の宮殿を後にした。
胸は喜びでいっぱい。ああ、早く帰りたい。帰ってエウリュディケの顔を見たい。
オルフェウスは後ろを振り返らず地上を目指す。そしていよいよ地上世界の光が見えてきた。あと少し。そう思ったとたん、オルフェウスはつい反射的に後ろを振り返ってしまったのだった。
「もうすぐだからね、エウリュディケ!」
「あっ、あなた!」
「ハッ!?」
振り返ってしまったオルフェウスの前から、エウリュディケの姿は消え失せた。
そして彼は二度と冥界への出入りは許されなかった。
悲しみのどん底に叩き落されたオルフェウスは寂しく竪琴を引き、やがてその竪琴を捨てて水に飛び込んで自害してしまった。
愛する妻と、冥界においてようやく再会することができたと言う……。

捨てられたオルフェウスの竪琴を拾い上げた人物がいた。オリュンポス最高神ゼウス
彼はボタボタと涙を流しとった。
「一部始終を見せてもらった。いやあああ、エエ話やなぁ〜〜」
そう思うならなぜさっさと出てきて助けてやらなかった?
ゼウスはオルフェウスの竪琴を星空に掲げ、
琴座に変えたと言う。

The End