ゼウスの子供たちにはスーパーベイビーが多い。
アテナにしろヘラクレスにしろ、凄いヤツは基本的に赤子の頃から凄いのだ。
後に商業と貿易の神となるヘルメスも、ある意味そんなスーパーペイビーに分類される。
巨人族の娘マイアとゼウスの間に、結構遅くに生まれたヘルメスは
キレネー山のニンフの元に預けられて育った。
とりあえず赤ん坊の仕事と言えば、「寝る事」「汚す事」「泣き喚く事」の3つである。
しかし将来オリュンポスのトップにその名を連ねる大物は、そんな平凡な事ばかりしていられない。
意気揚揚と揺り篭から抜け出したベイビー・ヘルメスは、
その辺の亀をとっ捕まえて甲羅を使って竪琴を作った。うーん、良い音。良い腕。
そんな好奇心旺盛のベイビー・ヘルメスがやがてヘルメス・ボーイになった頃の事である。
テッセイアに出かけたヘルメスは、牧場で体格の良い牛が放し飼いにされているのを見つけて、
ざっと5〜60頭ほどそれを盗んできた。
盗みがばれないよう、偽の足跡まで描いて来ると言う小細工つきだ。
5〜60頭もの牛をキレネー山に持ち帰って隠すと「へへ〜んだ!」とばかりにまた別の遊びを探しに行ってしまった。
さてさて、ところでこの牛の飼い主は実は太陽と芸術の神アポロン。
自分の牛が盗まれたと知って(それもざっと5〜60頭)それはそれはご立腹。
至急サテュロス達に捜査網を張らせた。
しかしエイジェント・サテュロス達、偽の足跡に捜査撹乱されてなかなか見つからない。
たまたま偶然にキレネー山の側を通りかかって、ヘルメス・ボーイの竪琴の音に
惹かれたサテュロスが中を覗いて見ると、そこにはなんと探していたアポロンの牛が…!
―捜査は、意外な方向へ展開した。
知らせを受けたアポロンはヘルメスを問い詰める。しかしヘルメス、ひょうひょうとした表情で、
「知りまへんな〜牛なんて。あんさん、なんぞ勘違いしてるんやおまへんかぁ?」
しっ、白々しいッ!!
「これだけ動かぬ物的証拠が有ながら、よくもまぁヌケヌケと!」
「エエでっか、ニイさん?百歩譲ってワテがこの牛盗んできたとしまひょか?」
「…百歩も譲らんでもお前が盗んだんだろうが」
「ワテは落ちとった牛を拾って持って帰っただけや。この牛1頭1頭のどこぞかにニイさんの御名前、書いてありまっか?」
「……このクソガキ…」
「ワテは将来、あきんどの守護神になる男でおま。商人とドロボウは表裏一体。それを裏付ける言葉を知ってまっか?」
「知らんさ。なんだって言うんだ」
「『もってけ、ドロボウ』。」
「アァァホかぁあああああああああああああああああッ!!!」
『嘘つきは泥棒のはじまり』とも言う。
とにかく、屁理屈コネながらも、断固謝罪しないヘルメスに怒りを感じたアポロンは、父神ゼウスを呼んで裁判を起こした。
ゼウスが出てくるとさすがにヘルメスもちょっとビビる。
手のひら返してアポロンとゼウスのご機嫌を取り始める。
「へっへっへ、まぁお二人さんそない目くじら立てなさんで…、あ、景気の良い音楽でも奏でまひょか?音はココロを潤す言うはりますしぃ〜?」
ヘルメスはお手製の竪琴を引き始めた。
―あ、ポロ〜ンポロポロン、ポロ〜ン。 あ、ポロ〜ン・嗚呼ポロ〜ン♪
この音色を聞いて、音楽の神・アポロンは目の色を変えた。
「なんてスバラシイ竪琴だ!俺の名前を呼んでいるッ!!」
いや、別にそう言う訳では無い。 しかしアポロン、この竪琴がスッカリ気に入ってしまった。
「そのアポロン・リラー(←もう勝手に名前つけている。)を譲ってくれるなら、今回の牛の件は水に流してやらないでもない」
話し合いはそれで合意され、竪琴はアポロンの物になり、ヘルメスは無罪放免。
ついでに竪琴の代金としてスピードの象徴となる杖・カドケウスをアポロンから授かった。
頭は固いが、こと音楽に関しては理解が深い。
良い楽器にはそれ相応の価値をつけるのがアポロンの良いところである。
ゼウスは不機嫌そうに去ってゆく。
「俺、呼ばれる意味なかったじゃん。ったくもー、くだんねー用で呼ぶなよなー。せっかくのギャルとのランデブーが…(ブツブツ)」
ヘルメスはその後足の速さを買われてゼウスの伝令役としても活躍し、羽のついたサンダルで空を駆ける。
将来ビッグになることを夢見ながら…。
ところで、最初には書かなかったが、ヘルメスは商業と貿易、そして泥棒の神としても崇められている。
THE END!!
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