神と人の英雄
〜12功業蛇足〜

 さて、この12功業蛇足編はちょいといつもの神話紹介話とは違います。
ご存知やも知れませんが、英雄ヘラクレスの物語は98年にディスニー映画化されています。それ以外にもたぶんあるんでしょうが、私のはこのディスニー版ヘラクレスを2001年8月に初めて観ました。今回の更新で、以前から「書きたいなーでも長いから面倒くさいなー」と、うだって取り掛からなかったヘラクレスをアップする動機に繋がった映画でしたので、ついでに簡単に御紹介&指摘解釈を書き記します。
ご興味の無い方、これからディズニー「ヘラクレス」を御覧になろうとお考えの方はこの先は読まないで下さい。

 まず、「ハーキュリース」なんですよね…。英語的に。私はこの映画をイギリスのテレビで見たので日本語字幕無しな為、完全ではありませんが、まぁディズニーアニメなのでほぼ内容は理解できたと思います。

ディズニーな為に物語にはそうとうオリジナル要素が加わっているのではと予想しましたが、案の定です。
第一に、ヘラクレスは大神ゼウスとその正妻の間に出来た一人息子だそうです(そんなアホな)。まず母親が神。しかもそのゼウスの奥さんは大凡ヘラ様とは思えないほど優しげ(女神の名前は作中言っていたかもしれませんが、聞き取れなかった)。しかもゼウスは「良きダディ」ヅラ。「おー、マイ・サン!マイ・ワイフ!」。リトルマーメイドのトリトン王に似てる気もします。
そしてこの作品の中で始終悪役に徹するのはやはりと言うべきか、冥界の王・ハデス。彼はゼウスをやっつけてオリュンポスをぶっ潰し、自分が王になろうと企んでいるそうです。
本拠である冥界でハデスはグライアイ姉妹に相談します。(この描写は大変面白い。3人で一つの目玉を共有しているという特徴をしっかり描いている。一目でグライアイ姉妹だと分ります)。彼女たち曰く、「太陽系の惑星が一直線に並ぶ頃、天変地異が起こりオリュンポスは滅びハデスが王になる。しかしゼウスの息子ヘラクレスによってハデスは倒され再びオリュンポスが蘇る」だそうな。
これを聞いたハデスはゼウスの生まれたばかりの息子ヘラクレスの誘拐を目論み、2匹の刺客を差し向ける。
一方、赤ん坊・ヘラクレスは神両親に愛され、父にペガサスを貰い(ペガサスは多分ペガサス座から来ているのだろうが、ペガサスに乗って戦うのは英雄ペルセウスのはずだ…)、幸せに育つはずだった。ある夜ハデスの刺客の怪物2匹に誘拐されて地上に連れて行かれ、魔法の薬を飲まされる。これは神を人間に変えてしまう薬だそうだ。二匹の怪物は急いでそれをヘラクレスに飲ませたが、人の気配を察知し奥に引っ込む。薬は一滴残らず飲ませなければならなかったのだが、最後の一滴だけ飲ませられなかった(いかにもディズニーらしい)。まぁそれだけでも十分ヘラクレスを人間に変えてしまう事はできたが。近づいて来たのは人間の夫婦。彼らは人間赤ん坊のヘラクレスを拾って育てる事にした。この時ヘラクレスはゼウスの紋章の描かれたメダルを首にかけていたのだ(こういうのもディズニー好み…)。それはともかく人間になったとは言え、殺してしまった方が尚良いので二匹の怪物は蛇に変身してヘラクレスに近づくが、逆に赤子ヘラクレスにおもちゃにされてしまった。(これはかの有名なエピソードである。ただしヘラの刺客じゃない…。)
ゼウスら神々部隊(羽の生えたサンダルを履いたゼウスの腹心的なおっちゃんがヘルメスである事はすぐ分る)はヘラクレスを捜索したが、見つけた時には息子は既に人間になってしまっていて連れ戻す事が出来ず、悲しみながらただただ見守っていた(え〜、ゼウスがぁ?)

 地上で人間として人間夫婦に育てられたヘラクレスだたが、元々ゼウスの血がながれているのと、人間変化の薬が不完全なのもあって、人間離れした怪力少年に育っていた。そんなヘラクレスの事を村人たちは気味悪がる。いつも仲間外れで疫病神扱いのヘラクレス少年を、人間父は「気にするな」と励ますが、ヘラクレスは落ち込むばかり。一人で丘に駆け上がって「Where do I belong?」系な歌を歌う(ディズニーの基本形ミュージカル。この、「自分のBelongする場所を探す」というのは今回の映画のテーマだと思われる)。
丘から帰ってきたヘラクレスに人間両親は実は彼が拾い子である事を打ち明け、ヘラクレスが首にかけていたゼウスの紋章メダルを彼に渡す。ヘラクレスはゼウスの信託を聞けばきっと自分の素性が分ると大喜び。「でもあなたたちは僕にとって最高の両親だよ」とお決まり且つターザンの時も使ったセリフで人間両親の元から旅立つ。
ゼウスの神殿(どう見てもアテナのパルテノン神殿…)にやってきて信託を求めると、ゼウス像が動き出しいきなりヘラクレスに「お前は私の息子だよ!大きくなったなぁ!」とかバラす。
「じゃあどうして僕は地上で育ったの?僕の事いらなかったの?」と問うヘラクレスに、ゼウスは彼が赤子の頃誘拐されて人間になってしまったことを話す。そして再びヘラクレスが神になるためには「真の英雄」にならなければならないと告げる。具体的にどうすりゃいいのかは「フィンに聞け」とか言って、ゼウスは消えるが代わりに幼い頃生き別れた(?)親友のペガサスに再会して共に旅立つ。

フィンってのはなんとサテュロスだった。彼はこれまでにたくさんの英雄を育てたそうだが(ケイロンの間違いじゃないかと思ったが、シナリオ的こじ付けだと後で分る)真の英雄になれた者は1人もおらず、頭に来てもう辞めたらし。が、結局はヘラクレスの指導をする事に。ところでサテュロスは好色で有名だが、ディズニーでもその辺はばっちにニンフを追いかけまわすことで表現していた。しかもこのニンフ達も別の神話から色々抜粋されている。ダフネらしき少女もいた(ただし彼女はニンフではないし、ヘラクレス神話とはなんの関わりも無い)
フィンはヘラクレスを指導するがその途中で一人の女性がケンタウロス・ネッソスにさらわれている現場を発見。ヘラクレスはケンタウロスをやっつけて彼女を救出。彼女の名はメグ。大人っぽいサッパリした女性だ。ヘラクレスは彼女に惚れてしまう訳だが、彼女の名はたぶんヘラクレス最初の妻・メガラから来て(てゆーかむしろ普通に「メガラ」って名前でした…)、ネッソスにさらわれていたのは多分2番目の妻ディアネイラがそうだったことから、それとフィンがサテュロスだったのは、ケイロンにしてしまうとこのシーンの悪役ケンタウロスと被ってしまうからだったのではないかと推測される。

このあとどんなだったか忘れたが、ヘラクレスはその怪力で次々とハデス刺客の怪物退治をして行く。メグが、岩崩れで子供が閉じ込められていると知らせに着たので助けに行くヘラクレス。しかしそこで9つ頭の怪物ヒドラと戦うことに(12功業の一つだった。神話通り最後の頭は岩に潰して倒す)。ヒドラを倒したヘラクレスは人々の歓声を受け、悪い王様も追い出し(この辺はうろ覚え)、周りの推薦で王になってしまった。王になった後もヘラクレスはたくさんの怪物を倒し、国民達(どうでも良いことまで王に頼る。パーマンで昔似た話があった気がする…)の悩みを解決して行き(12功業の中の牛小屋掃除もやってた。他にもあったんじゃないかと思う)、フィギュアが作られるほどのマスコット的ヒーローになった。世界でヘラクレス王を知らない者はいないって程有名になったのに、父ゼウスは未だ自分を神として受け入れてくれない。「息子よ、真の英雄とはそう言うものではない。もう一度考えてみるのだ」と言い残していつも消える。なぜ受け入れてくれないのだ。真の英雄とはどう言う意味なのだ。ガッカリしているヘラクレスの元に、ずっと会っていなかったメグがやってくる。久しぶりのメグとの再会にヘラクレスは喜んだが、実はメグはハデスの間者で、いくら怪物を送ってもヘラクレスに倒されてしまうのに痺れを切らしたハデスがメグにヘラクレス暗殺を命じたのだ。
しかし純真なヘラクレスの心に胸を打たれたメグは彼を騙し続ける事を躊躇った。フィンとペガサスが迎えにきてしまったので、イイムードを壊されつつヘラクレスは帰っていったが、残ったメグは揺れ動く恋心をどうするべきか歌う(どうでもいいが、彼女のイメージがジャスミン姫とダブる…)。やがてメグはハデスに自分はもう協力しないと訴えるが、逆にハデスに捕われてしまう。一方、メグに惚れているヘラクレスに、ハデスとメグのやりとりを聞いてしまったフィンがヘラクレスに事実を伝えると、喧嘩になってしまい、フィンはヘラクレスの元を去る(もうこの辺は完全にオリジナル街道一直線)。

フィンがいなくなってから、ハデスが直々にヘラクレスの所に捕らえたメグを連れてやってくる。ハデスが全てを語り、フィンの言うとおりメグがハデスの刺客だった事を知るヘラクレス。それでも捕らえられたメグを助ける為にヘラクレスはハデスと契約して1日怪力を封じられてしまう。普通の人間になってしまったヘラクレスにメグは今までの事を謝る。

しかしこの時、グライアイ姉妹が予言した「惑星が一直線に並ぶ時期」だったのである。ヘラクレスの怪力が失われたのをいい事に、ハデスは地震・火山・氷河・竜巻の怪物タイタンを呼び出し、オリュンポスに侵攻を開始した。
地震のタイタンがやってきて、ヘラクレスを殺そうとする。ヘラクレスはメグが止めるのも聞かずに逃げも隠れもせず立ち向かう。メグはペガサス(仲悪かったけどこのとき仲直りして)に乗ってフィンを呼びに行く。故郷に帰ろうとしていたフィンを説得してヘラクレスの元へ行くと、フィンが得意のアドバイスをヘラクレスに出し、形勢が逆転してくる。結局怪物は倒せたが、ヘラクレスを庇ってメグが瀕死の重傷を負ってしまう。しかしヘラクレスは残りの3匹の怪物の攻撃を受けている、父のいるオリュンポスへ向かわなければならない。フィンにメグを頼むと言い残し、ヘラクレスはペガサスに乗って一路オリュンポスへ。
侵攻を受けていたオリュンポスももはや戦場。鍛冶の神(ヘパイストス?)の打った投槍状のサンダーボルト投げまくるゼウス。戦車に乗った神々もいるがことごとくやられる(弱い。弱すぎる。あの中にはアレスもいるはずなのに)ゼウスも封じられ、ハデスが玉座に座り万事休すになったとき、真打ヘラクレスはオリュンポスに到着する。色々戦ってハデスが冥界に逃げ帰るハメに。そのとたん力を取り戻すゼウス群。ヘラクレスとゼウスは親子仲良く3匹のタイタンをぶっ潰すのであった。

しかし、その後ヘラクレスが急いでフィンの所に帰り着いたときには、瀕死だったメグは既に息を引き取っていた(これを見たときにはディズニー映画初のヒロイン死亡かッ!?とびっくりしたものだ…)
納得できないヘラクレスは冥界のハデスの元に殴りこみ(ケルベロスも倒すので12功業の最後のを暗示させているのかも)。メグの魂を返せと訴えるが、死者の魂は既に魂の壷みたいなのの中。もう手が出せない。
するとヘラクレスが自分がその壷の中に入って彼女の魂を連れてくると言い出す。ハデス的にこれは悪い話ではなかった。もしヘラクレスが魂壷に入ったまま力尽きれば、彼は死んだ事になる。ハデスが承諾してヘラクレスは壷の中に。どんどん生気を吸い取られ、ミイラのようになっていくヘラクレスがもう少しでメグに届きそうな時である。
実は人の命は糸で出来ていて、それをハサミでチョキン♪と切られてしまうと事切れてしまうって事になっているらしい。そのハサミの係りがグライアイ姉妹なのである。彼女らのハサミがヘラクレスの糸に迫る迫る。ヘラクレスがメグの手を掴むまであとちょっと、という時に、グライアイ姉妹のハサミが勢い良くヘラクレスの糸を挟んだ!…あれ?切れない?ヘラクレスの糸はいくらチョキチョキやっても切れないのだ!するとヘラクレスの糸が急に金色に光りだす。メグの手を掴む。ヘラクレスは金色の光・神様オーラに包まれていた。メグの魂を抱き上げて見事壷から戻ってきたヘラクレスにビビるハデス。ヘラクレスを引きとめようとするが、逆に壷の中に叩き落されて亡者に絡まれるハデスさんの出番はこれでお仕舞い。

メグの魂を体に戻すと彼女は生き返る。そして父ゼウスがヘラクレス達をオリュンポスの門の前に転送する。自ら神の力を取り戻したヘラクレスを、オリュンポスの神々が暖かく迎える。「真の英雄とは、自らを犠牲にしてでも人を守り事のできる強い心の持ち主の事」とゼウスがカッコイイことを言う(なるほど、そう来たか)
祝福されているヘラクレスを後ろ目に、人間であるメグは寂しそうに「よかったね」と言って去って行こうとする。そんなメグの後姿を見てヘラクレスはゼウスに言う。「この瞬間をどんなに望んだ事か。ずっと神の一員になることを夢見てきた。でもやっぱり僕は、メグと一緒に地上で暮らしたい(ははぁん、そう来るか)
ゼウスは息子の意志を尊重し、ヘラクレスは再び人間になる
そして最後は神と人間一緒にドンチャンお祭り騒ぎである(お約束…。しかし私はこのメグ、ディスニーヒロインの中では結構気に入っている。一番好きなのはベルだけど…)
そうそう、最後にヘラクレス人間両親と再会し、みんなで仲良く暮らす。
また、物語はつねに5人の女性の語り手によってすすめられるのだが、多分これは詩の神ミューズ達(本当は9人だけど)だと思われる。

結論。神話としてはグチャグチャな中にチラリチラリと事実に忠実な部分もある訳ですが、やはりディズニーは事を盛り上げるのがうまいし、何より音楽が素晴らしい。ディズニー版へラクレスはこれで十分面白いと思いますし、私個人としては全く文句はありません。(ただディズニー版ハーキュリースを見ただけで「ヘラクレス?あぁ、知ってるよ〜」とか言わないで欲しい。リトル・マーメイドだって海の泡にならないし、アラジンだって全く違うし…)

The End