ギリシア神話上、女神の中の女神がアテナならば、恐らく英雄の中の英雄はヘラクレスに相違ない。
べらぼうに長いが、長いが故に神と人との両方から祝福された英雄・ヘラクレスのお話をお聞きあれ。
テレビゲームなんかをやる時、オープニングムービーを飛ばす人とか、
映画ビデオを借りる時予告編を飛ばす人には少々苦痛かもしれないが、とりあえずこれを聞いて欲しい。
「事の始まりはゼウスだった」 はい、もう聞き飽きたね…。
ゼウスはテーベ市ご在住の将軍さんの若奥様に一目惚れをし、
人妻に手を出す事に関してはレダの件でもう前科があるのでこれっぽっちも気にせず
この若奥様・アルクメネとレッツ・ラヴ・ロマンス。
お約束どおりセウスの正妻にして嫉妬の女神・ヘラがこれにジェラし〜。
アルクメネの生まれたばかりの息子・ヘラクレスを暗殺すべく、2匹の蛇を送り込んだ。
ところが、幼いながら大神ゼウスの血を濃く継いだヘラクレス。
赤子にしてこの蛇2匹を絞め殺してオモチャにして遊んだと言う…。
この伝説的赤子はその後のパワフルでエキセントリックに成長し、いと逞しき青年に育った。
テーベに敵対するオルコメス王をヒネリ潰ーし、褒美にテーベ王の娘・メガラを妻に貰った。
美しい妻と子供にも恵まれ、ヘラクレスは幸せに暮らしていた。
しかし。ヘラ的に浮気女の息子が幸せなのは許せない。
ヘラは狂気の術をヘラクレスにかけ、彼の正気を奪う。
狂ったヘラクレスは、最愛の妻・メガラと自分の子供達を殺してしまった。
ヘラの怒りは憎き本人でなく、その重要関係人物に直接的な被害を及ぼすという法則の典型と言えよう、コレは。
正気を取り戻したヘラクレスは、自分のした事に唖然とした。
なんたること!この手で家族を殺めてしまった!
ギリシャ人がこういう心境に立ったとき、9割の人間がまずやる事つったら、神の信託を受ける事である。
神さま、私は一体どうしたらいいんですか。そこで神(暇してたアポロン)はこう言った。
「肉親殺しは罪が重いねー。
そーだなー、とりあえず俺のいとこが最近引越しで忙しくてー、
猫の手も借りたいとか言ってたから、そこの手伝いでもしてくるか?いい罪滅ぼしだろ?」
何気にかなり個人的私情が含まれているように感じるが、ヘラクレスは言われた通りエウリュステウスの元に行った。
「こんちは…。傷心のヘラクレスです…。引越しの手伝いにきたんだけど…」
「あー、いやー、悪いにょー兄ちゃん!助かるにょ!早速で悪いんだけどコレを外の――」
エウリュテウスがヘラクレスに、古本の束を裏庭に運んでくれるよう頼もうとしたその時だ!
突如エウリュテウスは見えない衝撃を受けて硬直した。
「ホホホホ!わらわの執念から逃れられると思うてかえ、あの私生児め!
こんな事もあろうかとエウリュテウスには予めわらわのアンテナを仕掛けておいたのぞよ!」
アンテナっすか…。さすが女神と言えどオリュンポス12神の一人ヘラ様。抜かりは無い。
「この古本を運べばいいの…?」
「デデデ・デンパ・ジュジュジュジュシンチュウ…にょ(カチカチカチ…)」
「…はぁ?」
「(チーン♪)古本ー!?にゃーにを言っているかにょ!
テメーにやらせる仕事はそんな焼きプリンのように生暖かい仕事では無いにょーー!」
「……はぁ??」
なんと恐ろしい。ヘラの操り電波に支配されたエウリュテウスは古本を投げ出し、
目の色を変え、ヘラクレスに次々と無理難題を押し付け始めたのだ。
その1!ネメアのライオン退治!
このライオンはどんな武器を持ってしても傷つけられない厄介な怪物!
しかし強力自慢のヘラクレスは棍棒でライオンを気絶させてから、素手でこいつを絞め殺したのだ。絞殺だッ。
ついでのその皮を剥いでマントにしてしまうというオマケ付き!
ついでに言うとこのライオンは獅子座。
「あのさ…これ、引越しと何の関係が…?」
「ぬぅ!?なかなかやるにょ!次はこれだにょーー!」
その2!レルネのヒドラ退治!
レルネ沼に住むヒドラは、9つの頭がありその内一つが不死身!切っても切っても再生してしまう!
しかも血には毒がある!最悪である!
しかし頭の良いヘラクレスは8つの頭の切り口を火炙りにしつつ、9つ目の不死身の頭を巨大な漬物石でゴリゴリ埋めた!
このヒドラはうみへび座、ついでにヒドラを助けようと飛び出してヘラクレスに踏み潰されたカニが蟹座。
「この毒の血、今度矢に塗って毒矢にしてみようかなぁ…」
「くぬぅ!まだまだにょ!次はこれだにょーー!」
その3!エリュマントスの猪狩り!
エリュマントス山の化猪をとっ捕まえるのが仕事。
猪を探して山を散策していたヘラクレスは偶然ケンタウロス族に出会う。
彼らは野蛮で好色家なので有名。
しかしまぁ、戦い好きなのはヘラクレスも一緒。ついでに好色なのも結構一緒(ちなみにヘラクレスはバイだ。どっちでも来い精神。)。
ンな訳でなかなかどうして意気投合したケンタウロス族の酒の席に招待された。
ところが、ケンタウロス族の酒はメチャメチャ強い事で有名なのだ。
ヘラクレスと言えど酔っ払い状態。酔った勢いで弓矢を持ち出し、打つ打つ打つ。
しかもケンタウロス族の仲で唯一誠実な性格の賢者・ケイロンに当たってしまうという、とんでもない事態を起こしたりもした。
あ、そうそう。肝心の猪は罠を仕掛けて見事にとっ捕まえた。
「あのケンタウロスに悪い事しちゃったなぁ。大丈夫だったかなぁ?」
「にょ!それは『星たちの森』にて「射手座の賢者」を参照して欲しいにょ!
それより、次はこう簡単には行かせないにょーー!」
その4!ケリュネイアの鹿を生け捕り!
黄金の角と青銅の蹄を持つこの鹿は、いくら走っても全く疲れない脚を持っている。
しかも狩の女神・アルテミスの聖獣である為、傷つける事ができない。
ヘラクレスはひたすら走って走って追いかけて捕まえる事にした。
結局捕まるのに1年かかったと言う…。
「あのさぁ、今更だけどホントに引越し……」
「ぬぁあ!骨の有り過ぎるヤツにょ!今度はコレだにょーー!」
その5!ステュンパリデスの鳥退治!
湖畔に凄む怪物鳥!
こいつは青銅のクチバシと爪を持っており、付近にお住まいの皆さんは度々被害を受けていた。
鳥は撃ち落すに限る。ヘラクレスはヒドラの毒の矢でこの怪物鳥を撃墜した。
「へへ…。なんか街の人に感謝されちゃった」
「ぐぬぁあ!人助けしてヘラヘラしてる暇はないにょ!次はキバって行って貰うにょーー!」
その6!アマゾン族の女王ヒッポリュテの腰帯の奪取!
アマゾン女王の腰帯は、戦の神アレスの帯だった。
一部のワイルド好きにはまだまだ根強い人気のあるアレス。
それを所持しているのがアマゾン女王だったのだ。
レディとの戦いを避けたかったヘラクレスは、女王に正面から帯を譲ってくれるよう頼んだ。
これまでのヘラクレスの偉業の噂を聞き及んで感心していたアマゾン女王は、それを快く承諾してくれた。
全ては丸く収まるはずだったのだが、またまたそれでは面白くないヘラが、
アマゾン女王に化けてヘラクレスに襲い掛かった。
売られた喧嘩は買うヘラクレス。結局本物のアマゾン女王の方を殺してしまった。
「いえーい!ミーの娘がこの帯、欲しがってたんだにょ!」
「神って自分勝手だよねぇ」
その7!アウゲイアスの牛小屋大掃除!
次にエウリュテウスが出した難題は、アウゲイアスさんちの牛小屋の大掃除。
数千頭もの牛を飼っているくせに、30年間一度も掃除をした事も無いそうだ。
イギリスの狂牛病よりよほどシリアスな問題である。
ヘラクレスは近くを流れる川の流れを変え、1日で牛小屋のゴミを綺麗に流してしまった。
「なーんで僕がこんな事やってるんだろう?」
「んにょ!?こ、今度はこれでどうだにょーー!?」
その8!クレタの牡牛を生け捕り!
海の神ポセイドンがクレタ島の王ミノスに送った牡牛(神々の資料館>「ラビリンス〜[本編]」参照)を生け捕りにするプロジェクト。
ライオンやヒドラを倒したヘラクレスにとっては朝飯前であった。
「あっはっは、楽楽だよこれは〜」
「にゅー!じゃ次はもっと凶暴なの行くでにょーー!」
その9!ディオメデスの人喰い馬退治!
鮫や狼なら分るが、優しくて賢い馬が何故人を喰うか!?
若干納得行かないが、とにかくヘラクレスは聞き込み調査から始めた。
すると、馬の飼い主ディオメデスはこれまでに何人もの人々を人喰い馬の餌にしてきた事が分かった!
なんてヤツだ!怒ったヘラクレスはディオメデスをこの馬に食べさせてからこの馬を退治した。
「なんか似たような話がクレタ島にもあったな。あっちは馬じゃなくて牛だったけど…」
「ンにょー!?ここまで来るとさすがにミーもビビりぎみにょ!でもまだまだ次があるにょーー!」
その10!怪物ゲリュオン退治!
西の果ての国エチオピアにいる三ツ頭の牛の化け物ゲリュオンを退治すべくヘラクレスは旅立った。
途中ジブラルタル山とセウタ山を旅の思い出に作って行った。
まぁ、それはついでで、この牛の化け物は3つの頭を持ち、しかも番犬に守られている世にもゴージャスな牛さん。
ヘラクレスはまず棍棒で殴り倒し、牛の頭を弓で射って、ずるずる引きずって帰ってきた。
「今夜は牛鍋だな。ところでさ、もうどうでもいいんだけど引越しは…」
「こりゃウマイにょー!デザートも喰いたくなったにょー!今度はコレをやるでにょーー!」
電波を受けたエウリュテウスの難題は尚も続く。でも長いから続きは乞うご期待!!
神と人の英雄 [前編]
To be continued!
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