短編集2

嵐を呼ぶ女神

処女を誓う女神

乙女心の女神

純潔の女神

快楽の女神

浄化する女神

純情な女神

×

嵐を呼ぶ女神

ゼウスの浮気相手(注:人間じゃありません)、女神メティスは妊娠中だった。
いやー、もー子供いっぱいいるんだけど次は男の子かねー?
そんなある日、
「メティスが次に生む男の子はいずれゼウスの最高神としての王位を奪うだろう」と言う予言が!(またかい)
ビビったゼウスはなんと妊娠中の妻(不倫)メティスを飲み込んでしまった。
「ゲップ!ふぅこれで一安心」。
所がドッコイ、ある日ゼウスは激しい頭痛に襲われ、息子(別の妻が産んだヤツ)に頼んで頭をカチ割ってもらった(待て)。
すると、
「うをぎゃああああああああ」
「と、と、父さん!父さんの頭から女の子が生まれた!」
「なぬーーー!?」
「しかも、鎧・兜・槍持った完全武装の…」
飲み込まれたメティスのお腹にいた子が頭まで移動して、ゼウスの脳味噌をチクチク突付いていたのだろう…。
「ふ、ふふ…そうか、女の子だったのかぁ。そりゃ悪かったねぇ。んー可愛いじゃないか。ヨシヨシ♪」
「だぁー♪(グサッ)」
「あ、父さん。頭に槍が…」
「は、はは…いやー元気のあるいい子じゃないか。ヨシヨシ…」
「きゃっきゃっ♪(ブスッ)」
「父さん。血ぃ出てる」
こうしてゼウスの頭から生まれた女の子は
ゼウスに全治1週間の傷を負わせながらも、ゼウスに可愛がられてスクスク育った。
頭から生まれたこの子は、後に知恵を司る、ギリシア神話上では恐らく最高の女神、アテナになる。

女神アテナの特徴を幾つかご紹介しておこう。
まず彼女は槍と鎧と兜を装備している。絵画で兜を被った女性がいたら9割の確立でそれはアテナだ。
また、知恵の象徴は梟。フクロウはアテナのペットだ。
また、胸に怪物メデューサを埋め込んである場合がある。
これは勇者ペルセウスがメデューサ退治の際、アテナが助言してやったからそのお礼に貰った、と言うエピソードがある。(星たちの森>「勇者の〜」参照)
また、知恵と力と勝利と正義と美徳と織物を司っている。
また、ギリシアの都市アテネの守護神であり、パルテノン神殿には彼女が奉られている。
潔癖な性格であり、3美神の1であると同時に、3処女神のひとりでもある。
彼女には特に嫌いな神が2人いる。戦神アレスと美の女神アプロディテ
何故嫌いかって…それはまたいずれ…。

つづく。

処女を誓う女神

月の女神アルテミスはある時言った。手に汗握ってこう言った。
「私、アテナ様に憧れてるのッ!」
「はぁ?」
双子の兄で太陽の神はアポロン白けた声で返事した。
「あっそ。ま、勝手にすれば?」
「お兄様!アテナ様について何か知らない?あーんもぅサイコーにかっこいいの!」
「アテナさんねー、そういや確かあの人処女の誓いをたててたなー。美人なのにもったいな…」
「私もたてる」
「あ?何を?」
「私も処女を誓う!私も私も!」
「なにーー!一生結婚しないだなんて、そんなの兄ちゃんが許さんぞ!?」
「ああ!凛々しいアテナ様!そうよ、あの方は誰か一人の物になっちゃあイケナイのよ!ね、お兄様。他には?」
「許さんぞ!?妹のお前が独身じゃあ、兄ちゃんが困るじゃないか!(何故?)」

こうして月と狩りと純潔の女神アルテミスも純潔の誓いを立てた。
言うまでも無く、3処女神の内一人はこのアルテミスである。
彼女はアテナ程の武装はしていないが、弓矢を持っていることが多いだろう。
男っぽくショートカットな場合も多い。
額にセー●ームーンみたいな(「みたいな」って…これが元なんだろうけど)三日月をつけている。
狩りの象徴は猟犬。アルテミスはいつも猟犬を従えている。
彼女の兄アポロンもまた狩りの神ではある。が、どちらかと言うと「狩り」は妹のイメージ。
アポロンは単に「弓の名手」のイメージで十分。
この双子はゼウスレトの子供。
純情さならアテナより彼女の方が上だろう。それを思わせるエピソードもまたいずれ…。

つづく。

乙女心の女神

美の女神アプロディテは溜息をついた。
「ふぅ…あたしも色々な男とロマンスして、色々な男とあんな事・こんな事してきて、
これからもその生活は変えないつもりだけどぉ、
やっぱー?そろそろー、一応『これが旦那♪』って言う『心のマイホーム♪』が欲しいお年頃ねぇ〜」
「…母さん。僕がいるって事は僕の父さんは?」
「あはん♪マイ・サン、エロスちゃん♪
アナタはー、あたしもー、自分で誰との間に作った子か忘れちゃったくらいだから、深く考えなくていいわよん♪」
「うわ…。ヤな母親…」
「決めたわ!あたし、お婿さん募集するぅぅぅん♪」
次の日、『求む!あたしのダーリン』とデカク書かれたポスター(手書き)の前にたくさんの男神が集まった。
「アプロディテが夫を探してるってのはマジかぁ!?」
「美の女神だせ!美の!」
さすがにアプロディテの人気は天界1番。いよいよあのイケイケ女が身を固めようとしているのだ!

盛り上がっている輪の外側で一人の青年がそれに背を向けていました。
彼の名はへパイストス
「おい、へパイストス!お前、来ないのかよ?アプロディテが夫選ぶんだぜ!?」
「俺はいい。結婚も美の女神もどうでもいい。剣でも作ってる方が楽しい…。(カーンカーン)」
ヘパイストは鍛治を司る神。
ゼウスヘラの息子なのだが、生まれつき足が不自由で、顔も決して美男子ではない。
その為、母親のヘラにまで嫌われていたが、性格は真面目で器用さは天下一品。
「ン!?あんな所に、あたしに背を向けてモクモクとお仕事なんてやっちゃってるつれない男!そこのアナタぁぁぁああああああ!」
(ビシィィィ!)
「ウフ♪あなたにきーめっこ♪(ぴと♪)」
なんと、アプロディテが選んだのは、立候補者の壁の向こう側の立候補者じゃないヘパイストス!?
なびかない男に惹かれるタイプだったのか…?
「ちょっとまて俺は別に…」
「『別に結婚してもいい』のね!?きゃーん、嬉しい♪(ぴと♪)」
「そんな事言ってないだろ。おい、みんなも何とか…」
「あーあー、残念だなー」「まぁ、しゃーねーか。じゃ、幸せにな、ヘパイストス」「さーて、帰るか」
「何、あっさり引き下がってるんだよ!おい、待て!」
「あはん♪ウブなア・ナ・タ♪」
何故かヘパイストスを気に入ってしまったアプロディテ。
「あんたが僕の父さんになるの?うーん、あんまイケてないけど、まーいっか」
何故か納得しているエロス。
「ああ分かったよ。なりゃいいんだろ、なりゃ。勝手にしてくれ」
諦めるへパイストス。
こうしてアプロディテの「心のマイホーム」選びは幕を閉じた。
…しかしコレといって彼女の生活に変わりがあるわけではない。

さて、解説しよう。
アプロディテは美と快楽を司る女神であり、泡から生まれた(正確には少し違うけど)。
ゼウスが連日浮気しているのと同じくらい彼女も連日恋している。恋していないと死んでしまうのかもしれない。
一応夫はへパイストスだが、戦神アレスとの間柄の方が有名。(アテナには毛嫌いされているが)。
ちなみにアレスとヘパイストスは兄弟。(待てコラ)
さて、へパイストスはヘラとゼウスの間に生まれた醜い子。真面目で手先が器用。
実はアテナが生まれる際、ゼウスの頭をカチ割ったのは彼である(助産夫さんかッ!?)。

続く。

純潔の女神

さてはて、アテナに憧れて純潔の誓いを立てたアルテミスはその後もガッチリガードの固い女を気取ってきた。
そんなある日、とある森のとある水辺で彼女はお付きのニンフ達と一緒に水浴びをしていた。
いいお天気で水は気持ちいい。
ニンフ達も喜んでいるようできゃっきゃっとはしゃいでいる。実に和やかな光景である。
ところが、そんな彼女たちの笑い声を聞きつけて「何だろう?」と泉に近づいていた一人の男。
デバイ王の息子アクタイオンが、猟犬を2,3匹連れて狩りに来ていたのだ。
彼に悪気は無かった。しかし、バッタリ水浴びするアルテミスとニンフ達に出くわしてしまったのだ。
「あ、こ・これは失礼!」
「きゃああー!男よ男よ!エッチー!」
「きゃー!アルテミス様の裸を見せちゃ駄目よー!」
「きゃー!アルテミスは純潔の女神なんですもの!男に裸を見せるわけにはいかないわー!」
口々にそんな事を叫ばれては、男でなくとも反射的にアルテミスを見てしまうと言うもの…。
アクタイオンはその一瞬バチっと全裸の女神アルテミスと目が合ってしまった。
「あ、いや、ボカァ何も見てま…」
「見たわね?」
「いえ、だから見てませ…」
「みぃぃぃぃたぁぁぁぁなぁぁぁぁぁ〜〜〜」
「ひぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜」
鬼のような形相のアルテミスが、とたん、フっと遠い目をしながらヤレヤレと頭を降る。
そしてアクタイオンを指差して睨みつけた。
「私の裸を見た、と、言いたければ言うがいいわ!そんな口で言えるものならね!」
「『そんな口』って…?」
…アクタイオンがそう聞き返そうとしたとき、彼の声は出ない。
なんと、口と鼻が顔から5センチ程突き出ている。頭には角!彼はみるみる鹿に変身して行ったのだ!
すると、アクタイオンを獲物と思い込んだ猟犬達がたちまち彼に食らいついた。
アクタイオンは猟犬に噛み殺されてしまった。
ちなみにこの猟犬の中に一匹だけいた雌犬は、子犬座のモデルとなります。

アクタイオンの…否、鹿の死体にアルテミスは背を向ける。
「……フフ。よし!証拠隠滅!これで私の裸を見た男はいない事になったわ!」
「やーん、アルテミス様ってば残酷な女神様♪」
「あーん、でもそこが素敵ですわ♪凛々しいですわ♪」
「凛々しい?ほほほほ!そうでしょうそうでしょう!?これでまた一歩アテナ様に近づいたかしら!?」
「もちろんですわ♪アルテミス様、ファイトですわ♪」
「ほほほほー!ええ、がんばるわ!さ、行きましょう、みんな!」
女神とニンフ達はきゃっきゃっとその場を後にした。
目的の為なら手段を選ばない…。アルテミスはまだまだ子供のようだ。

おわり(かも)

快楽の女神

(便宜上)身を固めた美の女神アプロディテ
しかし、彼女には実は気になる男がいたのだ(何を今更)。
「いってきまーす(小声)」
「母さん、何処行くの?」
「シッ!静かに、エロスちゃん☆おかーさん、これからアレスくんとラブホ行ってくる〜ん♪」
「はぁ?あの生真面目な(便宜上)父さんと結婚しておいて、いきなり浮気するわけ?しかも(便宜上)おじさんと…」
「あぁん☆夫の弟とフ・リ・ン♪これこそ最高のスリルだわん☆」(注;良い大人は絶対に真似しないで下さい。)
「戦神アレスって乱暴者でトモダチいない、皆の嫌われ者じゃん。母さん、そんなのが好きなの?」
「いやぁん♪あの残忍にワイルドな所がイイんじゃなーい♪じゃーねん☆」
さて、鍛治の神ヘパイストスはどうでもいい結婚をしたものの、生真面目さゆえ、
結婚したからには彼女は自分の妻だから大事にしてやらなきゃ。とか
結婚したからにはちゃんと養ってやらなきゃ。とか
随分と現実的・前向きに考え始めたようだ。
そんな訳で、常識的に考えて、妻の不倫に対して夫はちゃんと注意しなければならない、というのがヘパイストスの考えだった。(しかも相手、身内だし…)
どうやら妻は戦神アレスと関係があるらしい。
ここは一つ2人を懲らしめてやるのが夫として当然のこと。
ヘパイストスは持ち前の器用さを使って透明な網をアレスとアプロディテの泊まるラブホのベッドに仕掛けた。
たこつぼ仕掛けてたこが入る。
ものの見事に2人は網に掛かって、そのマヌケな姿は隠しカメラで全国のお茶の間に放送され、天界中の笑い者になった。
最も、アプロディテとあんな関係なら、アレスが羨ましいと思う男神もいただろうが…。

網に絡まって身動き取れないアプロディテを台車に乗せてガラガラとヘパイストスが連れて帰る。
「これに懲りたら浮気も程ほどにしろよ。俺も鍛冶場で忙しいんだから…」
「あっは〜ん☆ウブな顔して意外とジェラシ〜なア・ナ・タ♪」
全然懲りそうにない。

おわり(?)

浄化する女神

清楚なる知恵の女神アテナはある日、どこからくっついてきたのか、
『アテナファンクラブ会長』を自称するアルテミスをしかたなく連れて、ジャングルの奥深くを探検していた。
そこで世にも美しい森を見つけたのだった。
「まぁ、なんて美しい森でしょう。そう思いませんか?アルテミス」(凛)
「ハイ全くです、アテナ様!最高です!えぇもうぅ本当に!」(ぐぐっ)
「……。では、ここを『美徳の森』として、清く正しい生き物たちの集う聖域にしましょう」
『美徳の森』の立て札を立て、白い子馬や白鳥を放し、川のせせらぎ・静かな木漏れ日を楽しんでいた所に
突如不純な雑音が飛び込んできた。
「あっはぁ〜〜ん♪チョーきれーな森みぃ〜っけ☆あたしココが気に入ったわん!水浴びしていきましょう、エロスちゃん!」
「おーけー、母さん」
この喋り方は…。
いいかげん皆さんも覚えてくれたかな?美の女神アプロディテである。
「あらん?立て札があるわん?……エイ♪」
アプロディテは何と立て札を『悪徳の森』とマジックインキで悪戯書きしてしまいました。
「キャハハン☆さ、泳ぎましょ!」
「待ちなさぁああああああーーーーーいッ!」
当然、黙っていられない女神アテナ。
「あら、アテナちゃんじゃないのん!いたのん?」
「最初からいました!」
「ま、どーでもいいわん。ねー、一緒に水浴びしましょうよん♪」
「黙りなさい!何故貴女がここにいるのです?
ここは美徳の森。…悪徳の代表格のような貴女がいて良い場所ではありません」
「ひどいわんっ、あたしも仲間に入れてよん♪女の子同士じゃないん☆」
「貴女とは根本的に気が合わないのです!」
同じ3美神とは言え、清楚な美しさを持つアテナに対して、
アプロディテは官能的な美しさを持つ女神である。当然と言えば当然。

「大体私は前から貴女が気に入らなかったのですよ!何なの!?その格好は!服は!?どうしていつも全裸なの!?」
「あたしのナイス・ボデェを服なんかで隠したら勿体無いじゃないん♪
それに、全裸ならいつでも何処でもイイ男がいたらすぐにベッド・イン〜〜♪きゃあ♪」
「ふ・ふ・不純だわああああああああああ!」
堪り兼ねたアルテミスが泣きながらアプロディテに矢を放った。
「あん☆アブナーイ♪あら、アルテミスちゃん。大きくなったわねん♪アナタもアテナちゃんとグルなのん?」
「わ・わ・私は!アテナ様の大ファンなのよ!アテナ様の敵は私の敵ぃぃぃ!(ヒュンヒュン)」
矢が飛ぶ。アプロディテ、避ける。
それを横にアテナはまだ言いたい事があるようだ。
「それからね、アプロディテ!昨日の全国放送見ましたよ!?貴女、よくもまぁあんな破廉恥な事
…しかもアレスと?なんて趣味ですか!」
「あらーん、どして?アレスくんはカッコイイわよ〜?」(矢、避けながら)
「あいつは乱暴で凶暴で戦好きで、しかも深く考えないで簡単に戦争を起こします。
同じ力を司っている私は、何度あいつを撃沈してきた事か!」
「あはん☆アレスくんも言ってたわん。アテナちゃんはカレと喧嘩仲間なんですってん?
でも、いっつもアレスくんが負けちゃうのよねん♪もしかしてアテナちゃん達、………イイ仲?」
「いやああああ!アテナ様に何て事をーーーー!」
アルテミスは射る矢の数を1本から2本に増やし!
女子高で女子先輩に憧れる女子高生の心理としては、
憧れの先輩を男に取られる事はそれ相当に屈辱なのである(そうなんか?)

「アテナ様!このイケイケ女、私の弓が全然通用しないんですけどっ!?(泣)」
「なんでもいいからはやく追い出しなさい、アルテミス」
「はいーーーっ!出てけぇぇぇぇ、色魔女ーーーーー(泣)」
「あらん☆素敵な誉め言葉♪一時撤退だわーん☆」
アプロディテはひょうひょうとその場を去る。アルテミスが泣きながらその後を追いかける。
「で?貴方は何故そこにいるのかしら?」
「ドキ!?」
アテナは、森の泉の片隅でぜんまい式のアヒルさんを浮かべて頭に手ぬぐいを乗せているエロスに冷ややかな目線を送った。
「気付いてたの?はははー、みんな僕のことなんてぜーんぜん気にしてないかと思ったのにな〜♪」
「とっとと立ち去りなさい、全裸Jr。さもなくば私の槍が飛ぶわよ?」
「いやっはっは…、そんな怖い顔しないでよおねーさん。綺麗な顔が台無しだよ?(後退り)」
「そう言う事は母親にでも言うのね!(槍投げっ)」
「失礼しましたぁぁぁ〜〜〜〜」

美徳の森を悪徳が去る。
しかしこの世にアプロディテある限り、不純と性欲と肉欲の悪徳に終わりはない。
がんばれ、アテナ!負けるな、アルテミス!正義は我にあり!

おわり(ジラリジッジジラ〜♪)

※このお話は、他の物と違って現存するギリシア神話をデフォルメした物ではありません。
パリ・ルーヴル美術館、
マンテーニャの西洋絵画「美徳の勝利」を元に、私が組み立てたお話です。ご注意ください。

アテナとアプロディテは、潔癖の美徳と官能の悪徳を象徴して対立する仲です(というか、アテナが一方的にアプロディテを嫌っている)。
また、共に戦を司るアレスとアテナの間にもいざこざがあり、暴力的な戦・勝利を求めるアレスと、正々堂々とした正攻法的勝利を求めるアテナとでも度々衝突が起こります。
しかし、この2人が喧嘩するとなぜかいつもアテナが勝つ、というジンクスが、古代ギリシアにはあるのです。

純情な女神

知恵の女神、パラス・アテナに憧れて処女神となったアルテミス
潔癖であり、こと男に関しては一切興味を持たないと心に決めている。
「私は純潔の女神だもん!「純潔」って辺りに関してはもぉ、アテナ様よりも徹底してるって評判なくらいだもん!がんばらなきゃ!」
アルテミスは「純潔」の2文字に未来への希望を抱いていた。
しかし、彼女はまだ本当の恋もしたことの無い無知な少女。(断っておきますが、アルテミスの年齢なんて全く不確定です)

ある時、彼女に衝撃的な事件が起こった。
それはアルテミスがいつものように森へ狩へ行ったとき、「メッヘヘヘヘヘ〜」と羊の鳴き声がしました。
何故森に羊が?興味に駆られてアルテミスは羊の声のする方へ行ってみると、
羊飼いの少年エンデュミオンが木の下で昼寝をしていたのです。
ズッキューーーーン!!!
なに?なにこの胸のトキメキは!?
アルテミスは分かりやすくうろたえました。
そもそも、いつも男と言うとすぐに「キミ、可愛いね」とは「キミを愛してる」とか果ては「今夜、どう?」なーんてヌケヌケと言いやがって!
だから今までだって、会う男会う男みーーんな取り合う価値も無いと判断できて、好意を抱く隙なんて絶対に無かったのだ。
「こうやって無防備に眠られると…その、寝顔なんて見ちゃうと……か・かわいいかなーなんて…
お・思っちゃったりなんかしないもんしないもん!私は純潔の女神よ!
た・たとえ相手が無邪気な罪の無い愛らしい寝息を立ててい…る…ひとで…も」
アルテミスは顔が真っ赤。耳まで真っ赤。どうしよぅ!どうしよぅ!この人が好き!どうすればいい!?
眠っているエンデュミオンから3メートル離れた所で(恥ずかしくてこれ以上近づけないらしい)アルテミスは
初恋の乙女モードで胸をドキドキさせた。
「アテナ様に相談…駄目だわ!言えない!口が裂けても!あああああどうすれば!…でも待って?」
アルテミスはふと冷静に考えた。
今まで見てきた限り、男なんて皆、口先だけの嘘つきだ。
いくら「愛してる」なんて言っても、結局は女の体が目的なんだ!
誰とでも寝る!誰とでもキスできる!信じられない!場合によっては男同士ででも寝る!(それは若干エロス実行犯による責任もある。)
今は眠っているから何も言わないだけで、この人もそういう男と同じかも知れないぞ…?(ぞ〜?*)
「……………いや!そんな風に考えたくない!
こんなに可愛い寝顔で眠るこの人がそんな人だなんて思いたくない!
ああ、コレ、差別だわ!私、明らかにこの人のことヒーキしているわ!
間違いなく恋してるわ!これで確実よ!ああ、いよいよどうしよう!!」
考えれば考えるだけパニくる乙女。

悩んだ結果、アルテミスは意外過ぎる解決法を選んだ。
父である最高神ゼウスに頼んで、エンデュミオンが永遠に眠りから覚めないようにしてもらったのだ。
人間の都合なんかどうでもいい。可愛い娘の頼みに、ゼウスは二つの返事で承諾した。
羊飼いの少年エンデュミオンは永遠に森の木の下で眠り続ける。

「こんにちは。エヘヘ、あのね、私昨日は東の森に狩りに行ったの。
いつも通りたくさん捕まえたわよ?ほらコレ、貴方にあげようと思って作ったの。上手くできたかな?」
アルテミスは鹿の角を削った不恰好な、しかし一生懸命作ったお守りをエンデュミオンの手に握らせた。
エンデュミオンは何も言わない。
「見て見て。私の一番好きな本なの。貴方に読んで聞かせてあげたくて持ってきたの。聞いてくれる?エヘ♪」
目も開けない少年に向かって、アルテミスは笑いかけた。
彼女の姿を見えない。彼女の声も聞こえない。
彼の声も聞けない。彼の目の色もわからない。
それでもアルテミスは満足だった。
エンデュミオンは彼女の望む以上に彼女を求めて来ないし、彼女を置いてどこへも行かない。
「これでいいんだ。私は……」
永遠にはじまらないけど、永遠に終わらない恋だもん。私は純潔の女神。

純潔と純情は、意味は違うのだ。

おわり

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