浄化する女神
         
         清楚なる知恵の女神アテナはある日、どこからくっついてきたのか、 
         
         『アテナファンクラブ会長』を自称するアルテミスをしかたなく連れて、ジャングルの奥深くを探検していた。 
         
         そこで世にも美しい森を見つけたのだった。 
         
         「まぁ、なんて美しい森でしょう。そう思いませんか?アルテミス」(凛) 
         
         「ハイ全くです、アテナ様!最高です!えぇもうぅ本当に!」(ぐぐっ) 
         
         「……。では、ここを『美徳の森』として、清く正しい生き物たちの集う聖域にしましょう」 
         
         『美徳の森』の立て札を立て、白い子馬や白鳥を放し、川のせせらぎ・静かな木漏れ日を楽しんでいた所に 
         
         突如不純な雑音が飛び込んできた。 
         
         「あっはぁ〜〜ん♪チョーきれーな森みぃ〜っけ☆あたしココが気に入ったわん!水浴びしていきましょう、エロスちゃん!」 
         
         「おーけー、母さん」 
         
         この喋り方は…。 
         
         いいかげん皆さんも覚えてくれたかな?美の女神アプロディテである。 
         
         「あらん?立て札があるわん?……エイ♪」 
         
         アプロディテは何と立て札を『悪徳の森』とマジックインキで悪戯書きしてしまいました。 
         
         「キャハハン☆さ、泳ぎましょ!」 
         
         「待ちなさぁああああああーーーーーいッ!」 
         
         当然、黙っていられない女神アテナ。 
         
         「あら、アテナちゃんじゃないのん!いたのん?」 
         
         「最初からいました!」 
         
         「ま、どーでもいいわん。ねー、一緒に水浴びしましょうよん♪」 
         
         「黙りなさい!何故貴女がここにいるのです? 
         
         ここは美徳の森。…悪徳の代表格のような貴女がいて良い場所ではありません」 
         
         「ひどいわんっ、あたしも仲間に入れてよん♪女の子同士じゃないん☆」 
         
         「貴女とは根本的に気が合わないのです!」 
         
         同じ3美神とは言え、清楚な美しさを持つアテナに対して、 
         
         アプロディテは官能的な美しさを持つ女神である。当然と言えば当然。 
         
          
         
         「大体私は前から貴女が気に入らなかったのですよ!何なの!?その格好は!服は!?どうしていつも全裸なの!?」 
         
         「あたしのナイス・ボデェを服なんかで隠したら勿体無いじゃないん♪ 
         
         それに、全裸ならいつでも何処でもイイ男がいたらすぐにベッド・イン〜〜♪きゃあ♪」 
         
         「ふ・ふ・不純だわああああああああああ!」 
         
         堪り兼ねたアルテミスが泣きながらアプロディテに矢を放った。 
         
         「あん☆アブナーイ♪あら、アルテミスちゃん。大きくなったわねん♪アナタもアテナちゃんとグルなのん?」 
         
         「わ・わ・私は!アテナ様の大ファンなのよ!アテナ様の敵は私の敵ぃぃぃ!(ヒュンヒュン)」 
         
         矢が飛ぶ。アプロディテ、避ける。 
         
         それを横にアテナはまだ言いたい事があるようだ。 
         
         「それからね、アプロディテ!昨日の全国放送見ましたよ!?貴女、よくもまぁあんな破廉恥な事 
         
         …しかもアレスと?なんて趣味ですか!」 
         
         「あらーん、どして?アレスくんはカッコイイわよ〜?」(矢、避けながら) 
         
         「あいつは乱暴で凶暴で戦好きで、しかも深く考えないで簡単に戦争を起こします。 
         
         同じ力を司っている私は、何度あいつを撃沈してきた事か!」 
         
         「あはん☆アレスくんも言ってたわん。アテナちゃんはカレと喧嘩仲間なんですってん? 
         
         でも、いっつもアレスくんが負けちゃうのよねん♪もしかしてアテナちゃん達、………イイ仲?」 
         
         「いやああああ!アテナ様に何て事をーーーー!」 
         
         アルテミスは射る矢の数を1本から2本に増やし! 
         
         女子高で女子先輩に憧れる女子高生の心理としては、 
         
         憧れの先輩を男に取られる事はそれ相当に屈辱なのである(そうなんか?) 
         
          
         
         「アテナ様!このイケイケ女、私の弓が全然通用しないんですけどっ!?(泣)」 
         
         「なんでもいいからはやく追い出しなさい、アルテミス」 
         
         「はいーーーっ!出てけぇぇぇぇ、色魔女ーーーーー(泣)」 
         
         「あらん☆素敵な誉め言葉♪一時撤退だわーん☆」 
         
         アプロディテはひょうひょうとその場を去る。アルテミスが泣きながらその後を追いかける。 
         
         「で?貴方は何故そこにいるのかしら?」 
         
         「ドキ!?」 
         
         アテナは、森の泉の片隅でぜんまい式のアヒルさんを浮かべて頭に手ぬぐいを乗せているエロスに冷ややかな目線を送った。 
         
         「気付いてたの?はははー、みんな僕のことなんてぜーんぜん気にしてないかと思ったのにな〜♪」 
         
         「とっとと立ち去りなさい、全裸Jr。さもなくば私の槍が飛ぶわよ?」 
         
         「いやっはっは…、そんな怖い顔しないでよおねーさん。綺麗な顔が台無しだよ?(後退り)」 
         
         「そう言う事は母親にでも言うのね!(槍投げっ)」 
         
         「失礼しましたぁぁぁ〜〜〜〜」 
         
         美徳の森を悪徳が去る。 
         
         しかしこの世にアプロディテある限り、不純と性欲と肉欲の悪徳に終わりはない。 
         
         がんばれ、アテナ!負けるな、アルテミス!正義は我にあり!
          
         
         おわり(ジラリジッジジラ〜♪)
         
         ※このお話は、他の物と違って現存するギリシア神話をデフォルメした物ではありません。 
         
         パリ・ルーヴル美術館、マンテーニャの西洋絵画「美徳の勝利」を元に、私が組み立てたお話です。ご注意ください。 
         
          
         
         アテナとアプロディテは、潔癖の美徳と官能の悪徳を象徴して対立する仲です(というか、アテナが一方的にアプロディテを嫌っている)。 
         
         また、共に戦を司るアレスとアテナの間にもいざこざがあり、暴力的な戦・勝利を求めるアレスと、正々堂々とした正攻法的勝利を求めるアテナとでも度々衝突が起こります。 
         
         しかし、この2人が喧嘩するとなぜかいつもアテナが勝つ、というジンクスが、古代ギリシアにはあるのです。
      
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