ラビリンス・オブ・クレタ3

以下の物語はラビリンス・オブ・クレタ[本編]をお読み頂いてからご覧になっても、実質的にはちょっとしか関係ありません。

<フラッシュ・バック>

デバイ王の娘・セメレは、ギリシア神話最高神・ゼウスの数多の愛人の内の一人。
そしてゼウスの愛人を一人一人何らかの形で捻り潰して行くのが趣味な正妻・嫉妬の女神ヘラ
ヘラはセメレがゼウスの子を身篭っていると知って、彼女にこういった。
「お前、うちのヤドロクの子を身篭ったんだって?けーどねー、その子はホントに間違いなくあの人の子なのかえ?お前はうちのヤドロクの本当の姿を見たことがあって?」
ゼウスはいつも違う姿をまとってセメレに会いに来ていました。
セメレはそう言われてみるとなんだか自信がなくなってきた。そしてゼウスにこう言った。
「本当に私を愛しているのなら、一度でいいから貴方の本当の姿を見せてください」
ゼウスは駄目だと何度も言ったが、女のオ・ネ・ガ・イ♪にはかなわない。
変身をといて真の姿を現した。
しかし、神のオーラは普通の人間には強すぎる。
ゼウスの「神様オーラ」の稲妻に撃たれて、セメレは死んでしまった。
「嗚呼、オレって罪なヲ・ト・コ♪」
奇跡的に無事だったセメレのお腹の中にいた胎児をゼウスは拾い上げて、自分の腿に縫い込んだのです。
それから時が流れ、ゼウスの腿の胎児は無事この世に生まれ出たのである。
……言っちゃなんだが、ヒトとしてこれ程みっともない出生はそうそう無いだろう。
(神々の資料館>「ゼウス〜」参照)

<現在>

ギリシアのとある交差点にて。
「ちょっと、お聞きになりました?奥様。最近、この街に酔っ払い達が多くて〜」
「まぁ!あの噂は本当ザマスの?なんでも、酒の神がこの街に来たもんザマスから、酒飲み達が喜びまくっちゃってー」
その時、酒場の方からドっと笑い声が起こった。何だ?我々取材班も、酒場に行ってみようではないか。
「お前らぁ♪この世で一番スバラシイ物は何だ!?」(男の声)
「さーーーーーーけーーーーーーー!!!!」(複数の声)
「そう!そして酒を司るこの俺様はだれぇぇぇーーー?」
デュオニュソス様ーーーーーーー!!!」
「わーっはっはっはっはっはっは♪」
「ワーッハッハッハッハッハッハ♪」
…今のは何が可笑しいのだろうか?
今酒場の中は昼間から飲んだくれる酔っ払い共が宴会真っ最中。
酔っ払い共の中心でテーブルの上に立って(良い子は真似しちゃいけない)337拍子を取り始めているのは、酒の神デュオニュソス
そう、桃じゃなくて、腿から生まれたあの子である!
みっともない出生の割に、随分と必要以上に陽気に育ったようだ。
酒を司るデュオニュッソスは、この時代からの「信仰」を受ける一人だった。
どんな連中が彼を信仰するかというと、こういう酒好き達である。
彼らは酒フリークス。
会員になると毎月「月刊・酒の友」が無料で貰える。
そしてデュオニュッソスは最近発明した葡萄酒と言う酒をもっともっと世の中に広げる為、
後にコップ座になる豪華な杯を片手に、旅を続けている。
彼を慕って必ず酔っ払いが後をついてくるのだ。
酔っ払いの行進…。
「つーか、迷惑だよなぁ、あいつら…」
「でもまぁ、一応アレも神だし?」
「しかも片親は最高神でしょ?」
「どうにもねぇ…」
酒の神ご一行様は迷惑を振りまきつつも、こうして人々に暖かく見守られていたのであった(違う)。

さて、「葡萄酒を広めようの旅」の途中、デュオニュッソス一行は
ある孤島で一人の女がぼんやり水平線の彼方を見つめているのを見つけた。
陽気なデュオニュッソスはさっそく声をかける。
「YO!おぢょーサン♪そんな浮かない顔でどうしたのーーー(酔いどれ)」
「……ああ、一時の胸のトキメキなんかにフラフラっと行って、あんな男に身を任せた私が馬鹿だったわ…(ぶつぶつ)」
「ちぇけだっ!悩みなんか忘れて俺様と飲もうぜーーー(千鳥足)」
デュオニュッソスは女の肩に手を置きました。刹那、
「男が私に触ンじゃねぇーーーーーーーー!!!(バキャ☆)」
「く・は!き、効いたぜ…今のハイキックはよぉ…」
「何よ、アンタ?私の事は放っておいてちょうだい。
今、私は失恋と裏切りのダブルパンチでメンタル的にボルテージダウンなのよ」
「む、難しい事言うね。一体どうしたんだい?」
訳を聞くと、女はポツリポツリと話し出した。
彼女の名はアリアドネ
この近くにあるクレタ島を収めるミノス王の娘なのだが、父によって生贄にされそうだった
青年を助けて駆け落ちしたのに、彼に裏切られてこの孤島に取り残されてしまったのだと言う…。
「ま、そう言う訳で、私はもう男なんて信じな…」
「オウオウオウオウお気の毒デース。なんて可哀相なんだぁ君はぁぁぁ〜(滝涙)」
「………泣き上戸?」
「大丈夫!君を不幸になんてさせない!ボクがぁ!君のぉ!ハズバントになってあげるよぉ!(滝涙)」
「はぁ!?」
「だからもう…ヒック、悲しむのは…ウック、お止め〜。そして酒でも飲んでパーーっと行こう!」
「あのね…。ま、私の為にそんなに泣いてくれるなんて、アンタ変わってるけど優しいのね(微笑)」
こうして、アテネの勇者テセウスに棄てられたアリアドネは酒の神デュオニュッソスと結婚し、
ディオニュッソスの手から冠を授かりました。この冠は冠座として夜空に輝きます。
そしてある日…

「セメレ?それが俺様の母上の名前?
…つーか、俺様に母上がいたんだ!?(ガーン)俺様って父上が一人で産んだんだと思ってたのに!」
「アンタ、それって結構非常識よ」
「よぉぉぉし!マイ・ワイフ・アリアドネ!
俺様はこれから、俺様がまだ細胞の欠片だった頃に死んだ母上を冥界から連れ戻しに行って来るよ!」
「うん。分かった。行ってらっしゃい。あ、今日の晩御飯はコロッケがいいなー」
「…はい。」
デュオニュッソスは冥界から母・セメレの魂を救い出し、
父神・ゼウスに頼んで彼女を月の女神の一人に加えてあげたのです。親孝行です。

そして今日もまた、世界のどこかでクソやかましい酔っ払いのご一行様が宴会をしながら行進している事でしょう…。

 

ラビリンス・オブ・クレタ[酒神編]
[The End]