ラビリンス・オブ・クレタ

ミノタウロス伝説。牛の頭と巨体を持つ怪物だが、
彼はれっきとしたクレタ島の王ミノス王の最初の息子なのである。
嘘かホンマか。実話か、ホラか。
いずれにせよ、現在も尚クレタ島にはこの怪物ミノタウロスを閉じ込めていた
巨大迷宮(ラビリンス)の遺跡が残されているのである…(行ってみたい)。

さて、ミノタウロス出生からやや遡る事ウン年前、
ミノス王は自分の権力を世に知らしめるために、その象徴となる物が何か欲しかった。
それは家紋?…いやいや、安直過ぎる。
銅像?…いやはや、ちょっとダサイな。
彼は海の神ポセイドンに祈り、その祈りは通じた。
ポセイドンはミノス王に体格のいい立派な牡牛を寄越したのだ。
なんと立派!まさに王者の象徴!ミノス王は神に感謝した。
「ミノス王よ、本当にワシに感謝してとるんけ?」
「はい、もちろんです。ポセイドン様の為ならワタクシ、もぉ何でもいたしますです、はい」
「そうか。では、今やった雄牛をすぐにワシへの生贄にしろや」
「へ?」
ミノス王は絶句しました。
そんなぁ!せっかく貰ったちょーイカした牛を!?殺すの〜?えぇ〜!もったいな〜い!
惜しんだミノス王はポセイドンとの約束を破ってしまった。
「おのれミノス。ワシとの約束を破るとはいぃ覚悟じゃけんのぅ〜。今にみとれ…」怒るポセイドン。

そして数年後、ミノス王の妻が産んだ子供は頭が牛の怪物ミノタウロスだったと言う。
(ミノス王の妻が、アプロディテ関係で何かやらかして、牛に欲情し牛と交わった、という説もある。)
ミノス王はビックリ仰天。
名工ダイダロスに命じて深い深い迷宮を作らせ、その奥にミノタウロスを幽閉したと言う…。

さて、そんな悪夢があってからまた数年後、ミノス王も新たな子供たちに恵まれ
怪物の事などスッカリ忘れて幸せにやっていた頃。
アテネへ出かけていた自慢の息子が行った先で死亡した事を知った。
怒るミノス。すぐにアテネを包囲してしまった。アテネ王は必死に弁解する。
「あれは事故だったんだ。許してくれ」
「ほぉーう、事故とな?そんじゃな、毎年アテネから少年・少女を7人ずつクレタ島へよこすと約束するなら許してやらぁ」
「い、一体どうする気なんだ?」
「迷宮のミノタウロスの生贄にするんじゃい!」
「そんなぁ!」
釘を飲む思いでアテネ王はこの約束を交わし、ミノス王はアテネから引き上げていった。
と言うわけでアテネは毎年若い男女7人ずつ・合計14人の若者をクレタ島へ差し出すハメになってしまった。
そんなドス黒い時代のある日、アテネ王の息子・テセウスが言いました。
「親父ぃ、今度の生贄の中に俺を入れてくれよぉ。俺がミノタウロスをへし殺してくるからさぁ!」※へし殺す:首をへし折って殺す、の意。
アテネ王は猛反対しました。
「ワシだって人の親だ!みすみす息子のお前を怪物の生贄になんかやれるかぁぁあ(泣)」
「親父ぃ、親父がそう思うのと同じように、生贄になる子供の親達は悲しんでるんだぜぇ?」
息子に説得され、アテネ王はテセウスを泣く泣くその年の生贄の中に加えました。
ただし、1つ約束をさせたのです。
 ―もしも無事に帰ってこれたら、その時の帰りの船に白い帆を立ててくれ―
 父と約束してテセウスはクレタ島へ赴きました。

「ご機嫌麗しゅう、哀れな生贄諸君〜♪」
 わくわく気分のミノス王は14人の若者を、翌日のラビリンス入りに控えて牢獄に閉じ込めました。
その日の夜、一人の女性が生贄の中に紛れたテセウスにこっそり会いに来ました。
彼女の名はアリアドネ。ミノス王の娘です。
「お父様は貴方たちをミノタウロスの生贄にする気だわ。
でも私は一目見たときから貴方の事を愛してしまった。
どうか生きてラビリンスから戻ってきて。そして、私を連れて逃げてください」
アリアドネは銀の糸の玉をテセウスに渡しました。
これはラビリンスの設計者・ダイダロスに相談して手に入れた「ラビリンスから笑って生還!マル秘アイテム☆」なのです。
「この糸の先をラビリンスの入り口の柱に結び、糸を垂らしながら進むがヨイのぉ。
ンでもって、帰ってくるときにはその糸を辿ればヨイのぉ。
なんせ、ワシでも一度入ったら戻ってこれへんカラのぉ、ほっほっほ〜」ダイダロス・談
なんと原始的。なんと無責任。なんと単純。
「分かった。サンキュ、王女さん。これでミノタウロスをへし潰したあと、迷子にもならずに帰って来れるゼ!」※へし潰す:首をへし折った後、駄目押しとばかりに頭蓋骨を潰す、の意。

そしていよいよラビリンス入りの当日。
テセウスは言われた通り入り口の柱に糸の先を結び付け、糸玉を生贄仲間に持たせて奥へと進んでいきました。
「さぁ、俺はそんな事よりとっとと牛の化け物と戦いたいぜ〜」
「大将ぅー、ホントに大丈夫なんですかぁ?」
「ビビってんじゃねぇ!相手はたかが牛だ!そう思え!」
「だから、牛の怪物でしょ……?」
 通路を行くとだんだん人骨が転がってたりしあます。そしてそこにいる黒い巨大な影…!
「出ましたぁ!大将ぅ!牛のバケモンですぅぅぅぅぅぅぅぅう!!」
「待ってました!まかしとけ!お前らはその糸、切らねぇよーにな!」
生まれてすぐに日の光を見ることも無く、十数年迷宮に幽閉されつづけていたミノタウロス。
ヤツの目には憎しみしかありません。
「オメーも、怪物なんかに生まれてこなきゃ、こんな一生を過ごさずに済んだのにな……」
 べきゴキゴキャッッ☆
「ひぃぃぃぃ〜〜!つーか、大将!哀れみっぽい事言ってる割には、その腕に情けが無いッス!」
「マジ、エグイっすよ、その音は…!」
「うるせーなー、助かったんだから文句いうなよ〜(爽快)」

こうしてテセウスとその一行は無事糸を辿ってラビリンスから生還しました。
そしてその晩の内に、アリアドネ王女を連れてアテネへの帰路に着きました。
めでたしめでたし………………………でも無いんだな、これが。

アテネへの帰路の途中、テセウスはある孤島に船を付け、助けてくれたアリアドネを置き去りにしていったのです。
「なんてゆーかぁ…俺、色黒はあんま好みじゃないんだよね〜…」
「騙したわねーーーー!男なんか男なんかぁぁああああーーー!」

更に悪い事に、テセウスは父との約束だった筈の「もしも無事だったら」の「白い帆」を掲げるのを忘れてしまったのです。
「ああ…、息子よ。やはり死んでしまったのか…。……………ワシも死のう」
「なんか〜、おれもー最強だよな〜?英雄になれるかな!?なぁなぁ!?」
「大将、スッカリ気分が舞い上がってますね…」
テセウスが死んでしまったと思ったアテネ王は、船から白い帆が確認できないと知った時、
崖から身を投げて自殺してしまったのでした。


怪物を倒した勇者。
生まれたときから闇に閉ざされた化け物。
裏切られた王女。
息子を思って自害した父。
果たしてこの物語の主役は誰だったのでしょう?
ギリシャ神話では数多ある「怪物退治」系の英雄伝。
しかしその全ての英雄が心やさしきナイスガイだった訳ではありません。
英雄はやはり、人間の英雄なのですから。

 

ラビリンス・オブ・クレタ[本編]
The End