短編集

水仙の花

アネモネの花

ヒヤシンスの花

ゴムの樹

水仙の花     

昔ギリシアのあるところに、それはそれは容姿端麗・超絶美形のステキすぎる一人の少年がいました。
彼の名はナルキッソス
その容姿端麗・超絶美形のステキすぎる彼に、1人の少女が恋をしました。
しかし容姿端麗・超絶美形のステキすぎるナルキッソスはちっともその少女に振り向いてはくれませんでした。
彼はこれでなかなか理想が高かったのです。
嗚呼!どこかに自分の理想の美しいヒトはいないだろうか!(別に男でも女でもよかったんだろうな)
そんなある日容姿端麗(以下省略)のナルキッソスがトボトボと
湖のほとりを歩いていて、ふと湖の方を見やったらアラ、まぁ、なんとそこには!
この世のものとも思えぬほどスィート・ビューティーな少年がいるではありませんか!
…って、それ湖に写った自分の姿です。
しかしこの日からナルキッソスは湖に写る美しい少年に首っ丈。
胸が切なくてお食事も喉を通りませんとな。
毎日湖面を見つめるナルキッソスを少女は木陰から見守るしかありませんでした。
しかしエスカレートにエスカレートを続けるナルキッソスの恋は、
ついに彼自身を湖に跳び込ませる衝動にまでなりました。
慌てて止めようとした少女が飛び出した時には既に遅し。
吸い込まれる様に湖に身を投げたナルキッソスは二度と浮かんではきませんでした。
少女は湖面に向かって「ナルキッソス!ナルキッソス!」と呼びつづけました。
そしてその湖には後に毎年水仙の花が咲くようになりました。

ところで、少女は実はエコーという名の精霊で、ナルキッソスが自分自身に惚れたのは
彼女の気持ちを踏みにじったナルキッソスへの神々の神罰だった、という説もあります。
ナルキッソスが最後に言った「さよなら」と言う言葉を、エコーは繰り返しながら「山彦」となったと言います。

おわり。(おわり!?)

追記:彼の名は「自己愛」の意の「ナルシスト」の語源になります。

アネモネの花   

現在の生物学上、全くもって否定的事実なのだが、
木の幹の裂け目から生まれた少年アドニスは、ギリシア神話上ガニュメデスと並んで1番目か2番目に美少年らしい。
さて、その美少年なるアドニスに美の女神アプロディテが恋をした。
しかしアドニスは今遊び盛り無鉄砲なティーンエイジャー(いや、十代かどうかは知らないけど…)。
いかに相手が美の女神でも恋なんかよりもっと遊んでいたい。
趣味は狩り。
何にでも精一杯で無茶苦茶するもんだから、アプロディテは心配だった。
「生命保険にも入らず危険なコトをするのはヤメテん!」
「んー、大丈夫だよ。僕、狩り好きだから…」
ちっともアプロディテの心の内に気づかないアドニスは
ある時突如森から表れたイノシシにひかれて死んだ。
アプロディテは泣きながら言った。
「あたしはあなたを失ったこの悲しみを忘れたくない。
だからあなたのその血は一輪の花としてこれからも咲きつづけるわん!」
こうしてアドニスの流した血から真紅の花アネモネが咲いたという…。

ところで、アドニスに突っ込んでいったあのイノシシは実は当時アプロディテの恋人で
アドニスに嫉妬した戦神アレスだという説もある。
またお前ら自分の都合で第三者を犠牲に……。

おわり。(お、おわり?)

ヒヤシンスの花   

結論から言おう。
ヒヤシンスの花の話の犠牲者…もとい、元となるのは、
太陽とスピーツと芸術の神・アポロンが愛したヒュアキントスと言う名の美少年である(神々に資料館>「アポロン〜」参照)
エロスが弓の腕を馬鹿にされた腹いせに、アポロンをこの美少年に恋させた。
「あはは♪うふふ♪」とまでは行かんだろーが、一応作為的カップルとはいえ、そこそこうまくは行っていたのだ、これが。
ところが健全に円盤投げでもして遊んでいたある日、
当時ヒュアキントスに恋していた風の神ゼフュロスとやらが嫉妬して強風を起こした。
円盤は高く高く空へ舞い上がり、あろうことか運の悪い事に
ヒュアキントスの脳天に直撃してしまった。
ヒュアキントスはそのまま出血多量で死に、頭から流れた血が草を紅く染めていった。
そこにアポロンの涙が零れ、ヒヤシンスの花が咲いた。
行きずりの恋とはいえ、ちょっと可哀相だったかも。

おわり。(マジおわり…?)

ゴムの樹   

こんばんは。また会えて嬉しいよ〜。前々回ご紹介したアネモネの花の話は覚えてるかな?
お、覚えてらっしゃる?いやはやうれしーですねー。
パーソナリティ13年のワタクシ、これほど嬉しいコトははじめてデース。ハイ、ではとっとと始めますか。

現代生物学上、全くもって否定的だった少年・アドニスの誕生法について、新たな情報が入ってまいりました。
時はアドニス誕生から遡る事数十年前(?)、キュプロスミュラと言う名の王女がいた。
彼女はある時ついうっかり美の女神アプロディテへの供え物を忘れてしまったのだ。
他にする事もあるだろーに、心の狭いアプロディテはミュラを許せず、罰を与える事にした。
「あはん♪カモ〜ン!マイ・サン、エロスちゃん♪」
「呼んだ?母さん」
「あそこの王女ミュラにぃ、あなたのその『ちょーイチゲキ必殺☆射られた者は恋の炎にメロメロ胸キュン♪』弓矢で一発射っちゃって来てちょうだいん!」
「またぁ?あのさぁ母さん、この弓矢使う度にね、僕、皆に恨まれるんですけど〜」
「…射って皆に恨まれるのと、射らずに今ココであたしに恨まれるのとどっちがいいん?」
「ヤって参ります(チャキ)。で、恋する相手は」
「父親よん!」
ミュラはアプロディテの裁きとエロス(実行犯)により実の父キュプロス王に恋をした。
しかし親子での交わりは許されません(神はいいらしい)。
禁断の愛に苦しんだミュラは自殺を決心する。
しかし彼女の自殺を止めた乳母は彼女を父親の寝室へ忍び込ませてしまう。
キュプロス王は娘と知らずに彼女と交わり、ミュラは父の子を身篭ってしまった。
ある日自分の抱いた女が娘であったと知った王は怒り、娘を殺そうとした。
ミュラは神へ慈悲を請い、彼女の体はゴムの樹へ変わった。
ゴムの樹は没薬の樹と言われており、香りが良い。
身篭ったまま樹に変身したミュラだったが、子供はちゃんと生まれた。
これが「現代の生物学上全くもって否定的」な木の幹から誕生したアドニスの実態である。
しかし、アプロディテの怒りによって生まれたアドニスに、後にアプロディテが恋をし、
アドニスも結局母親同様植物になってしまう運命にあるのは全く皮肉の皮肉である。

おわり。(ちゃら〜ん)

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